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相続税を軽減するための遺産分割のポイント

日本の相続税は、法定相続分による遺産取得課税方式とされていることから、被相続人が所有していた財産を、相続人等が何をいくら相続したのかによって、相続財産の評価方法などが異なることになります。そのことから、相続開始後においても遺産分割を工夫することで、相続税法の特例や財産評価について有利な方法を選択することが可能です。また、相続人に配偶者がいる場合には、配偶者の税額軽減を活用して、相続税の納税を先送りすることができます。また、配偶者が、何を、いくら相続するかによって第二次相続の相続税が異なることになります。
そこで、実務上頻度の高い項目に限定して、相続税を軽減するための遺産分割の留意点について解説することとします。

配偶者の税額軽減

(1)選択適用の判断

配偶者の税額軽減の規定は、相続税の申告書に、配偶者の税額軽減の規定の適用を受ける旨及び配偶者の軽減金額の計算に関する明細の記載をした書類その他の一定の書類の添付がある場合に限り、適用する(相法19の2③)とされています。

そのことから、配偶者の税額軽減の規定の適用を受けるか否かは任意とされています。そこで、配偶者の税額軽減の規定の適用を受けない場合には、相続税の申告書第5表(配偶者の税額軽減額の計算書)に「私は、相続税法第19条の2第1項の規定による配偶者の税額軽減の適用を受けます。」と記載されているので、その記載されている部分を抹消して申告する、又は、相続税の申告書第5表(配偶者の税額軽減額の計算書)を提出しないようにします。

配偶者の税額軽減の規定の適用を受けない場合は、第一次相続で配偶者が納付しなければならない相続税は、配偶者が相続した財産から債務として控除されます。

また、第二次相続が10年以内に開始した場合の相続税の納付税額の計算において、第一次相続で配偶者が納付した相続税の一定額は相次相続控除(※)によって税額控除されることから、第二次相続が第一次相続から1年以内に開始したときなどでは配偶者の税額軽減の規定の適用を受けないことが有利になることもあります。

そのため、相続税の申告に当たり、配偶者の税額軽減の規定の適用を受けることが有利か否か慎重に判断しなければなりません。
(※)相次相続控除とは、前回の相続から今回の相続開始前10年以内に被相続人が相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得し相続税が課されていた場合には、その被相続人から相続(被相続人からの相続人に対する遺贈に限ります。)や、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した相続人の相続税額から、一定の金額を控除する制度です(相法20)。

配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例選択の留意点

小規模宅地等の特例の適用を受けることができる宅地等が複数ある場合、限度面積調整後の1㎡当たりの減額金額が最も大きくなる宅地等を選択することが有利となります。
しかし、配偶者の税額軽減の影響を受ける場合には、必ずしも有利になるとは限りません。
そのことを、以下の設例で確認してみます。

【設例】
1. 被相続人 父(令和6年3月死亡)
2. 相続人 母・長男(両親とは別生計)
3. 相続財産と遺産分割                       (単位:万円)

長男
A居住用宅地等(330㎡) 3,300
B駐車場(200㎡) 4,000
その他の財産 17,850 17,150
合 計 21,150 21,150

4. 相続税額等の計算                        (単位:万円)

A居住用宅地等から
小規模宅地等の特例を選択
B駐車場から
小規模宅地等の特例を選択
長男 長男
A居住用宅地等 3,300 3,300
B駐車場 4,000 4,000
小規模宅地等の特例 (※1)△2,640 (※2)△2,000
その他の財産 17,850 17,150 17,850 17,150
課税価格 18,510 21,150 21,150 19,150
相続税の総額 10,784 11,040
算出税額 5,033 5,751 5,794 5,246
配偶者の税額軽減 △5,033 (※3)△5,520
納付相続税額 0 5,751 274 5,246
合計納付税額 5,751 5,520

(※1)3,300万円×80%=2,640万円
(※2)4,000万円×50%=2,000万円
(※3)11,040万円×1/2=5,520万円

この設例の場合、小規模宅地等の特例選択においては、A居住用宅地等から選択した方が「相続税の総額」は256万円減額されることとなります。

しかし、母が相続したA居住用宅地等から小規模宅地等の特例を選択した場合には、小規模宅地等の特例による軽減額は、配偶者の税額軽減の計算において吸収されることとなることから、計算結果は逆に、長男が相続したB駐車場から当該特例の選択をした方が納付税額は231万円少なくなります。

あん分割合の調整

父が高齢で亡くなった場合、母もそれなりの年齢であれば、母の相続は10年以内に開始する可能性が高いと予想されます。そのような場合には、父の相続の際に母が相続する財産のあん分割合(※)を母に寄せるような調整をすることで、母が納付することとなった相続税は相次相続控除の適用を受け、母の相続の際の相続税を軽減することが期待されます。

(※)小数点第2位未満の端数がある場合には、相続人等の全員が選択した方法により、各相続人等の割合の合計値が1になるようその端数を調整できます。

令和5年簡易生命表による平均余命表から平均余命が10年未満である年齢は、男性の場合79歳以上、女性の場合は83歳以上とされています。その場合、配偶者にあん分割合を寄せておけば相次相続控除を受けることができる可能性が高いと思われます。

【設例】
1. 被相続人 父(令和6年3月死亡)
2. 相続人 母・長男・長女
3. 遺産の額 90,000万円
4. 相続税の総額 30,872万円
5. 相続人の課税価格(あん分割合)

課税価格
(単位:万円)
あん分割合
ケース1 ケース2 ケース3
30,000 0.33333… 0.33 0.34
長男 35,000 0.38888… 0.39 0.38
長女 25,000 0.27777… 0.28 0.28
合 計 90,000 1.0 1.00 1.00

6. ケース別における各人の相続税額                  (単位:円)

ケース1 ケース2 ケース3
0 0 2,058,100
長男 120,057,700 120,400,800 117,313,600
長女 85,755,500 86,441,600 86,441,600
合 計 205,813,200 206,842,400 205,813,300

(※)ケース3の母の税額の計算例
① 算出税額 30,872万円×0.34=104,964,800円
② 税額軽減額 30,872万円×0.333333…≒102,906,666円
③ 納付税額 ①-②=2,058,100円(100円未満切捨て)

ケース2の場合、端数処理により切り捨てられた部分に係る配偶者の税額軽減を受けることができませんので、その結果、最も税負担が重くなります。
しかし、ケース1とケース3を比較すると相続税額に差はありません。

また、ケース3の場合、母が令和7年2月に死亡した場合に、母固有の財産が1億円あると仮定し、父の相続においてあん分割合の調整の有無による母の相続税(法定相続分どおり相続すると仮定)を試算してみます。

● 相続税の計算                         (単位:万円)
母のあん分割合切り上げ 母のあん分割合調整なし
長男 長女 長男 長女
母固有の財産 5,000 5,000 5,000 5,000
父からの相続(注1) 14,897 14,897 15,000 15,000
課税価格 19,897 19,897 20,000 20,000
各人の算出税額 5,419 5,419 5,460 5,460
相次相続控除(注2) △103 △103
納付税額 5,316 5,316 5,460 5,460
合計税額 10,632 10,920

(注1)(3憶円-2,058,100円)×1/2≒14,897万円
(注2)2,058,100円×100/100×19,897万円÷39,758万円×(10-0年)÷10年≒103万円

取引相場のない株式等の相続

被相続人の議決権割合が20%で相続人(同族株主)が配偶者と子2人の場合、誰が何株相続するかによって、原則的評価方式で評価される相続人と、配当還元方式によって評価される相続人に区分されます。

その場合に、配偶者が相続する株式については原則的評価方式で、子が相続する株式は配当還元方式によって評価されるよう株式を分割するようにします。
そして、配偶者の相続開始前に配偶者が相続した株式を孫などへ生前贈与するなどの対策によって、配偶者の相続税(第二次相続)を軽減することができます。

【設例】
1. 被相続人 父(令和6年3月死亡)
2. 相続人 母・長男・長女(全員A社の役員ではない)
3. 父の相続財産
(1)A社株式 20,000株(原則的評価額 5,000円/株、配当還元価額200円/株)
(2)その他の財産 30,000万円
※ A社(7月決算)の発行済株式数と株主
 発行済株式数100,000株(父の兄80,000株、父20,000株)

4. 遺産分割
(1)A社株式
① 分割案1 母10,002株、長男4,999株、長女4,999株
② 分割案2 母10,000株、長男5,000株、長女5,000株
 母はA社株式を相続した後に、長男の妻とその子へそれぞれ3,400株を、長女の子へ残余の株式を令和6年7月に贈与した。
(2)その他の財産 法定相続分どおり相続する

5. 相続税の計算                         (単位:万円)
分割案1 分割案2
長男 長女 長男 長女
A社株式 5,001 100 100 5,000 2,500 2,500
その他の財産 15,000 7,500 7,500 15,000 7,500 7,500
課税価格 20,001 7,600 7,600 20,000 10,000 10,000
相続税の総額 7,540 9,220
各人の算出税額 4,284 1,628 1,628 4,610 2,305 2,305
配偶者の税額軽減 △3,770 △4,610
納付税額 514 1,628 1,628 0 2,305 2,305
合計税額 3,770 4,610

この設例の場合、母、長男及び長女は全員同族株主に該当します。

しかし、分割案1の場合、母は相続によって取得した株式数(議決権割合)は、10,002株÷100,000株≒10%で5%以上であることから、その株式は「原則的評価方式」によって評価されます。一方、長男や長女は取得後の議決権割合は5%未満で、かつ、中心的な同族株主に該当せず、かつ役員でないことから「特例的評価方式(配当還元価額)」によって評価することになります。

分割案2の場合、相続人全員が同族株主で取得後の議決権割合が5%以上となるため、「原則的評価方式」によって評価されます。

● 同族株主のいる会社の場合の評価方式
株主の態様 評価方式
同族株主 取得後の議決権割合が5%以上の株主 原則的評価方式
(類似業種比準方式又は純資産価額方式、若しくはそれらの併用方式)
取得後の議決権割合が5%未満の株主 中心的な同族株主がいない場合
中心的な同族株主がいる場合 中心的な同族株主
役員又は役員予定者
その他の株主 特例的評価方式
(配当還元方式)
同族株主以外の株主
● 分割案1による遺産分割を行った場合の中心的な同族株主の判定表
範囲判定者 父の兄 長男 長女 合計 判定
80,000 10,002 4,999 4,999 100,000
父の兄 80,000 80,000
10,002 4,999 4,999 20,000 ×
長男 10,002 4,999 4,999 20,000 ×
長女 10,002 4,999 4,999 20,000 ×

なお、母が相続した株式を長男や長女の子などへ贈与する場合の株式の評価額も、受贈者全員同族株主に該当しますが、取得後の議決権割合が5%未満になるように贈与すれば、長男や長女の子などは中心的な同族株主に該当しないし、役員でもないことから「配当還元方式」によって評価され、その価額は贈与税の基礎控除額以下の贈与になることから、贈与税も課税されません。 

● 長男等の子3人が母から株式を均分に贈与を受けた場合の中心的な同族株主の判定表
範囲判定者 父の兄 長男 長女 長男の子A 長男の子B 長女の子 合 計 判定
80,000 4,999 4,999 3,334 3,334 3,334 100,000
父の兄 80,000 80,000
長男 4,999 4,999 3,334 3,334 16,666 ×
長女 4,999 4,999 3,334 13,332 ×
長男の子A 4,999 3,334 3,334 11,667 ×
長男の子B 4,999 3,334 3,334 11,667 ×
長女の子 4,999 3,334 8,333 ×

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