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預貯金調査の要諦|帰属の判断基準や裁決事例から学ぶ
産のうちの預貯金は、銀行等の残高証明書などで容易に確認することができます。しかし、預貯金の名義人が真の所有者であるか否かの判断は困難が伴います。とくに、夫婦間におけるお金の贈与は、口頭によるものが多く民法549条に規定する諾成契約が成立しているか確認が困難なことも珍しくありません。
そこで、預貯金の名義人に預入れの経緯や日常の管理処分の概要などを質問し、その原資が被相続人からの贈与である場合には、贈与の事実を注意深く検証し、慎重に判断しなければなりません。
名義預金等の判定については、国税庁の公表している相続税の税務調査の概要では、相続財産のうち申告漏れとなっている財産の大半は、現金・預貯金及び有価証券で、その割合は43.4%となっていることから、相続税の税務調査は金融資産が中心であることが分かります。特に、被相続人名義の預貯金や株式ではないものについて、名義預金等として課税されている場合が多いと思われます。
名義預金については、相続税の税務調査で必ず指摘される事項であり、修正申告に至る主たる原因となっていることを説明し、代表的な裁決例などを用いて留意すべき点などを分かり易く解説することで、相続人の誤った認識のもとに回答されたものは訂正されることにつながると思います。
預貯金等の帰属の判断基準(平成27年10月2日:裁決)
「相続財産である預貯金等の帰属については、一般的には、その名義人に帰属するのが通常であるが、預貯金等については別の名義への預け替えが容易にできることから、単に名義人が誰であるかという形式的事実のみにより判断するのではなく、その原資となった金員の出捐者、その管理、運用の状況、贈与の事実の有無等を総合的に勘案して預貯金等の帰属を判断するのが相当であると解される。」としていて、これに類似する裁決や裁判例が多くあります。
多くの判決や裁決事例から、名義預金等か否かについて判定される場合の判断基準を抽出すると、以下のような項目となっています。
① 原資となった金銭の出捐者
② 管理運用の状況
③ 通帳・印鑑の管理状況
④ 贈与の有無
⑤ 預入時の手続き
⑥ 金融機関の担当者の認識
⑦ 届出印及び印鑑票の筆跡
⑧ 当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等
名義預金を相続財産として申告した後に更正の請求を行う場合
審査請求人(請求人)が、請求人の父からの相続に係る相続税の申告について、相続財産に含めて申告していた請求人名義の預貯金等(本件預貯金等)は請求人固有の財産であるとして、更正の請求を行ったところ、原処分庁が、当該預貯金等は請求人固有の財産とは認められないとする更正処分を行ったのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案(令和3年10月1日裁決)では、以下のように裁決し請求人の請求を退けています。
「更正の請求は、自ら計上記載した申告内容の更正を請求する納税者側において、その申告内容が真実に反するものであることの主張立証をすべきであると解されるところ、請求人提出資料及び当審判所の調査によっても、誰が本件預貯金等の原資を出えんし、出入金を行っていたのか特定することができない上、本件預貯金等の通帳及び証書は、自宅の金庫(本件金庫)内にて被相続人や配偶者名義の各預貯金の通帳及び証書と一緒に保管されており、請求人が本件金庫を自由に開閉できる状況ではなかったことからすると、請求人が、本件預貯金等の原資を出えんし、本件預貯金等の管理をしていたとは認められない。これに加え請求人は、本件預貯金等以外の請求人名義の預貯金の通帳については、本件金庫とは別に手元に保管していたことからすると、本件預貯金等とそれ以外の請求人名義の預貯金は明確に区別されていたといえる。
以上のことからすると、本件預貯金等が請求人に帰属するとはいえず、本件相続に係る相続財産ではないとは認められない。」
配偶者名義の預貯金
名義預金として認定される可能性が最も高いのは、配偶者名義の預貯金と考えられます。夫婦は同居が常で、被相続人は配偶者に生活費などの支払いのために、毎月一定額を手渡ししたり、預金通帳やキャッシュカードを預けていることも少なくないと思われます。
配偶者は毎月一定の金額の範囲内で生活費を賄い、残ったお金は内助の功の結果として配偶者の預貯金に入金されていることもあります。この場合、配偶者へ預けたお金は、民法666条に規定する消費寄託とされ、被相続人の預貯金と判断されます。
消費寄託とは、金銭その他の代替物の寄託をいい、受寄者は寄託物を消費してよく、種類、品質及び数量の同じ物をもって返還すれば足りるとするもので(民法666) 、銀行預金などがこれにあたるとされています。
我が国では、夫が自己の財産を自己の扶養する妻名義の預金等の形態で保有するのも珍しいことではないというのが公知の事実であり、妻の名義の預金等の帰属の判定において、その預金等が妻名義であることの一事をもって、妻の所有であると判断することはできず、諸般の事情を総合的に考慮して決める必要があります。
配偶者の名義預金についての裁決(平成19年10月4日)では、以下のように判定しています。
請求人らは、本件預貯金等のうち、①妻名義のものは、妻が被相続人との婚姻前から保有していた預貯金及び妻固有の収入並びに生活費を節約して貯めたヘソクリを原資として形成されたものである、②子名義のものは、子が両親との同居期間中に子固有の収入から生活費として家計に入れていた金員等を原資として形成されたものである、また、③一部のものについては被相続人から生前に贈与を受けたものである旨主張する。
しかしながら、①本件預貯金等のうち妻及び子名義の郵便貯金の一部については、「郵便貯金メモ」等により被相続人が管理しており、被相続人がその処分権を有していたと認められること、②本件預貯金等のうち①以外の預貯金等についても原資は被相続人が出捐したものであり、その管理も被相続人により行われていたと認められること、③妻の固有収入は本件預貯金等以外の預金に化体しており、本件預貯金等の原資たり得ないこと、④子が固有収入を生活費として家計に入れていた事実を認めるに足る客観的証拠はないこと、⑤生前に贈与を受けたと請求人らが主張する預貯金等について妻は贈与を受けたことはない旨答述している上、贈与されたと主張する預貯金等の管理運用は被相続人が行っており、贈与の事実は認められないこと等から判断すると本件預貯金等は相続財産であると認めるのが相当であり、請求人らの主張は採用できない。
なお、妻名義の普通預金1口については、原資が不明である上、口座開設時の印鑑届の筆跡も妻であり相続財産とは認められないから、原処分はその一部を取り消すべきである。
以上の裁決事例から分かることは、配偶者の預金であるか否かの判定において、
① その預貯金等は誰が管理処分権を有していたか
② その預貯金等の原資は誰の資金から拠出されたか
③ 贈与されたと主張する預貯金等の管理運用を被相続人が行っていたら贈与が認められない
④口座開設時の届出は誰が行っているのか
などが判断基準となっているようです。
贈与税の申告だけをもって贈与事実を認定することはできない
相続税の申告において相続財産としていた株式は、被相続人から贈与により取得したもので贈与税の申告を行っていたものとして、請求人が更正の請求をしたのに対して、原処分庁が、当該株式の贈与の事実は認められず、更正処分をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、争いになった事案です。
審判所の裁決(平成19年6月26日)では、贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の事実は、贈与事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、それをもって直ちに贈与事実を認定することはできないと解すべきであるとしています。
贈与による財産の取得の時期
贈与による財産の取得の時期は、態様別に以下のように定められています。
態 様 | 原 則 | 根拠となる基本通達 |
---|---|---|
書面による贈与 | その契約の効力が発生した時 | 相基通1の3・1の4共-8(2) |
口頭による贈与 | その履行の時 | 相基通1の3・1の4共-8(2) |
停止条件付贈与 | その条件が成就した時 | 相基通1の3・1の4共-9(2) |
農地等の贈与 | 農地法の規定による許可又は届出の効力が生じた時 | 相基通1の3・1の4共-10 |
相続税基本通達によると贈与による財産の取得時期を「書面によるものについてはその契約書の効力の発生した時により、書面によらないものについてはその履行の時」としています。書面によらない贈与の有無は、贈与されたとする財産の管理・運用の状況等の具体的な事実に基づいて、総合的に判断すべきてあると解されています。すなわち、財産が贈与を受けた者の支配管理下に置かれた時に贈与があったと判断されます。
一方、書面による贈与ではその契約の効力が発生した時としていますが、これは原則的な取扱いを規定しているものであり、たとえ、書面による贈与であっても当該書面の作成が単に形式的なものであり、書面作成後、当該贈与による贈与税の申告をすることなく、かつ、相当期間(通常は税務上の徴収権が消滅する最長期間である7年以上であるケースが多いです。)にわたって格別の理由もなく当該贈与による不動産の所有権の移転登記を行わない場合にはその登記が行われた時に贈与があったものと考えられます。
民法549条(贈与)
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
民法550条(書面によらない贈与の解除)
書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
相続開始直前に出金した高額の預金などの使途が不明な場合
被相続人が出金又は相続人が被相続人から指示されて銀行などから出金し、被相続人自らが使途したお金は、相続人に使途を質問しても分からないこともあります。たとえば、愛人への贈与については、解明できないので、相続人等からの推測の話を記録しておき、使途不明金として相続財産に計上しない処理をすることになると思います。
それ以外にも、解明できない大口の出金については、調査又は提供を受けた資料や調査方法、相続人への質問と回答などをまとめ、相続財産に計上しないと判断した理由などについて、相続税の書面添付に記載することが望ましいと考えます。
しかし、相続開始直前に引き出した高額な現金の使途が不明な場合に、その現金は相続人の管理下にあったとして相続財産と認定された事例(平成28年12月7日裁決)や、相続開始時に自宅で保管していたと認めるのが相当とする裁決(平成30年4月24日)もあることに留意しておかなければなりません。
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