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【税理士向け】社長の自宅を社宅にする|節税になる?条件は?
経営者からよく受ける質問の一つとして、自宅を買う際に個人で購入した方が得なのか法人で購入した方が得なのかということがあります。この質問に対して正確に回答するためには、「個人で自宅を購入した場合」と「法人で自宅を購入した場合」のメリットデメリットについて理解していなければなりません。
自宅を法人で購入した場合のメリット
購入時の印紙代や不動産取得税、司法書士手数料等を全経費にすることができます。また毎年支払わなければならない固定資産税、火災保険料、修繕費等と建物の減価償却費も全額経費することができます。
社宅スキームの仕組
社宅スキームの仕組みとしては大きく分けて二つの方法があります。
2. 社長個人が土地を取得して、法人が建物を建設して役員に賃貸するという方法
法人が個人の土地の上に建物を建てる場合には借地権課税の問題が発生しますので注意が必要です。借地権課税されないようにするためには、
2.役員に対し相当地代の支払いを行う
方法があります。
この場合の相当の地代については、イからハのいずれかの方法で計算します
ロ.借地権設定時の相続税評価額×6%
ハ.過去3年間の相続税評価額の平均額×6%
役員社宅の家賃の設定
役員社宅として役員が法人に対して低額な家賃を支払った場合に課税されないためには、税務上定められている最低限の賃料の支払いが必要です。この賃料の計算方法については、その役員社宅が小規模な住宅に該当するか、それ以外の住宅かによって計算方法が変わってきます。小規模な住宅に該当する場合のほうがより少ない賃料を支払って社宅に住むことができますのでメリットが大きいです。
小規模か小規模でないかについては、社宅が木造かそれ以外かと社宅の面積によって判断します。
小規模な住宅に該当する場合の社宅家賃
小規模な住宅とは、木造家屋は132㎡以下、木造家屋以外は99㎡以下のものをいいます。
小規模な住宅に該当する場合の社宅家賃は以下になります。
②12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
③(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
小規模ではない住宅に該当する場合の社宅家賃
小規模社宅以外の役員社宅の場合には次の①と②の合計額の12分の1が社宅家賃になります。
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には10%
② (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
この場合社宅の面積の計算上、マンション等については専有部分だけでなく、共用部分も含めて計算する必要があります。この共用部分の面積の計算の仕方については、次の方法により行います。
固定資産税の評価証明書で確認します。固定資産税の評価証明証の登記床面積と現況床面積が異なる場合には現況床面積が共用部分を含んだ面積になります。
②1棟所有のマンションの場合の共用部分面積の計算については、使用している部屋の専有面積×建物全体の共用部分面積合計/建物全体の専有面積合計で計算します。
社宅家賃の計算における注意事項
豪華社宅にしないこと
社宅家賃の計算において特に注意が必要なのは社宅が「豪華社宅」に該当するかどうかです。
豪華社宅とは、形式的には面積が240平米以上で、支払賃料や内外装の状況等から判断して豪華な社宅と認められる社宅のことをいいます。この場合には税務上認められている低額な家賃ではなく通常の家賃を支払わなければならないことになっています。
よって豪華社宅と認定されてしまうと、役員社宅を使った節税スキームは大幅に効果が下がってしまいます。この豪華社宅に該当しないようにするためにはどうしたらいいかということですが、方法としては2つあります。
①社宅の面積が240㎡を超えないようにする
例えば、自宅の面積が260㎡で、240㎡を20㎡超えてしまうような場合には、その20㎡部分は会社の倉庫や会議室として会社に賃借して自宅部分は240㎡以内にする方法です。また2世帯住宅の場合にはそれぞれの役員との契約を分けることによって各役員の社宅を240㎡以下にするという方法も考えられます。
②支払賃料や内外装の状況等から判断して豪華な社宅と認められないようにする
具体的には役員個人の嗜好を著しく反映した特別な設備を作らないようにするということです。例えば、プールや特注家具、ワインセラー、オーディオルーム、スポーツジム等です。もしこうしたものを作るのであれば会社のお金は使わずに社長個人のお金で購入した方がいいでしょう。
家賃の見直しをする
社宅家賃の金額について税務署から否認されることがないようにするためには定期的に家賃の見直しを行う必要があります。少なくとも3年に一度は見直しを行った方がよろしいかと思います。
理由は役員社宅の家賃の計算が固定資産税評価額をベースに計算されているからです。固定資産税評価額は3年に1度評価替えが行われます。評価替えが行われた場合には以下のように対処します。
→ 社宅家賃を下げてください
2.土地建物の固定資産税評価額が上がっている場合
→ 社宅家賃を上げてください
社長個人の自宅を法人に売却する際の注意点
利益相反取引となる
役員社宅については法人が新たに社宅を建設する場合のほか、現在の社長の自宅を法人が買い取って社宅にするという方法も考えられます。この社長個人の自宅を法人に売却する際には注意が必要です。なぜなら社長個人の自宅を法人が買い取る行為は、利益相反取引に該当するからです。利益相反取引とは取締役が自己又は第三者のために会社(自らが取締役を務める会社)と取引をすることをいいます。
利益相反取引を行う場合には、会社法上制限があります。取締役設置会社(株主総会+取締役会+監査役)の場合には、会社が社長個人の自宅を買い取ることについて、取締役会での売買契約の承認(議事録の作成)が必要です。
この場合のポイントは以下になります。
②特別利害関係人が決議に参加しないこと
すなわち、この決議に社長個人は参加しないということです
取締役会非設置会社(株主総会+取締役)の場合には株主総会での売買契約の承認が必要です。この場合も「不動産の特定+売買の価額+相手方」を明確にする必要があります。
社長のみが株主の場合には社長も決議に参加することができます
適切な売買価額を算定する
社長が会社に自宅を売却する場合には、売却時の時価で売買しないと課税問題が発生します。適正な売買価額(時価)の算定は土地建物に分けてそれぞれ次の価格のいずれかの方法を選択します
(1)土地の時価評価方法
①実勢価格(実際に取引されている価格)
②公示価格(実勢価格の90%)から計算
③路線価(実勢価格の80%~70%)から計算
④固定資産税評価額(実勢価格の70%~60%)から計算
(2)建物の時価評価方法
①実際の取得価額-減価償却費(非業務供用資産として計算した金額)
②固定資産税評価額(実勢価格の60%)から計算
③「建物の標準的な建築価額表」-減価償却費(非業務供用資産として計算した金額)
不動産を時価より高く購入した場合
社長所有不動産を時価より高く購入した場合には次のような税務処理が必要になります。
この役員給与とされた額については、会社側で所得税の源泉徴収が必要になります。②社長側の税務
不動産を会社に譲渡した社長は、譲渡代金と不動産の時価との差額が会社から受けた役員給与として課税対象になります。
例として、時価5000万円の不動産を会社が社長から6000万円で買い取った場合には、会社は以下のように処理します。
役員給与 1000万円
社長
役員給与 1000万円
譲渡収入 5000万円
不動産を時価より低く購入した場合
逆に社長所有不動産を時価より低く会社が購入した場合には次のような税務処理が必要になります
① 会社側の税務会社は、時価で社長所有の不動産を買ったものとして法人税を計算します。その不動産の時価が取得価額となり、購入価額のうち時価との差額は雑収入として課税対象になります。
② 社長側の税務
社長は会社に譲渡した土地建物の譲渡価額が譲渡時の時価の2分の1以上であればその実際の譲渡価額が譲渡所得の収入金額になります。社長が譲渡時の時価の2分の1未満の価額で会社に土地建物を譲渡した場合には、実際の譲渡価額にかかわらず、時価で譲渡したものとみなされ、時価との取得価額の差額が譲渡所得として課税対象になります。
例として、時価5000万円の不動産を会社が社長から4000万円で買い取った場合には、以下のように処理します。
土地建物 5000万円 普通預金4000万円
雑収入 1000万円
社長
4000万円が譲渡収入
購入した建物の減価償却
社長の自宅を会社が購入した場合には、購入した建物の減価償却については中古資産を取得した場合の耐用年数を使って計算します。
耐用年数の計算は以下の方法で行います。
①法定耐用年数の全部を経過している場合法定耐用年数×20%
②法定耐用年数の一部を経過している場合
法定耐用年数-経過年数+経過年数×20%
※1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨て、その年数が2年に満たない場合には2年とします
(例)木造住宅で築年数が25年の場合
法定耐用年数22年<経過年数25年
22年×20%=4年
社長の自宅を法人が購入した場合にも、購入時に発生する登録免許税、不動産取得税、印紙税、司法書士への登記の報酬等の費用は法人の経費にすることができます。
住宅ローンの残債があるとき
社長の不動産を法人が購入する場合で、その不動産を取得した時の住宅ローンの残債があるときは注意が必要です。
その場合その住宅ローンに対しては次の3つの処理が考えられます。
① 社長の住宅ローンを法人への不動産の売却代金で返済する。住宅ローン残高が少ない場合には返済できますが、残債の金額が大きい場合には売却代金で返済できず個人に債務が残ってしまう可能性があります。
②法人が新たにローンを組んで購入する。
住宅ローンよりも返済期間、金利の条件が悪くなる可能性があります
③ 住宅ローンは個人で借りたままにしておき、会社への売却代金の未回収額を毎月の返済額分として受け取りローンの返済に充てる。
住宅ローンはそのままにしておいても所有権の名義変更は可能です。
但し銀行がその事実を知った場合にはローンの全額返済を求められる可能性があります。
シミュレーション
① 社長が個人で住宅を購入した場合
② 法人で自宅を購入して、社宅として法人に対し低額な家賃を支払った場合を比較した、具体定なシミュレーションは以下のようになります。
不動産動産購入費用を5,000万円
物件所有にともなう固定資産税、保険料等の維持費を年1%相当の50万円
金利負担を50万円(元金返済年200万円)
減価償却費100万円
個人が負担する社宅家賃を年120万円とした場合の比較
1.個人所有の場合
すべて個人が負担するので、年300万円(200万+50万+50万)の負担となります。
2.会社所有の場合
家賃120万円の授受が個人と法人間でありますが、会社は年153万円(200万+50万+50万-120万-27万)の負担、個人は120万円の負担となります。個人と法人を合わせると税効果の27万円の差ということになりますが、個人として考えると、年300万円の負担が実質120万円の負担になるので手取額が増えることになります。
●物件を個人所有・会社所有にした場合の違い(単位:万円)
項目 | 個人所有 | 会社所有 | 個人(会社所有) |
---|---|---|---|
家賃収入 | ─ | 120 | △120 |
維持費 | △50 | △50 | |
金利 | △50 | △50 | |
元金返済 | △200 | △200 | |
減価償却費 | △100 | △100 | |
損益収支 | △200 | △80 | △120 |
税効果(33.583%) | ─ | △27 | ─ |
資金収支 | △300 | △153 | △120 |
(注)損益収支は元金返済を除く。資金収支は減価償却費を加味。
社長個人は所得制限により住宅ローン控除は受けられないものとする。
社宅スキームを使うための条件・判断ポイント
最後に社宅スキームを使うための条件・判断ポイントを比較してみます
一般論
法人で購入、所有した方が税金面では有利になります。
個人で購入、所有した場合には資金調達面では有利になります。
社宅を法人で購入した場合
① 購入時
・資金調達面から見ると10年から20年の事業ローンになります。
・融資の可否・金利は銀行のスタンス財務内容によって変わってきます。
・個人の場合と比べると融資の審査は厳しくなります。
・その代わり法人でお金を借りた場合には融資実行時の諸経費が法人の経費になります。
② 所有期間中
・借入金の金利は会社の経費になります。
・維持管理費は経費になります(固定資産税、火災保険料、修理費等)。
・建物部分の減価償却費を経費にできます。
・社宅にして安い賃料で住むことができます(相場家賃の10%程度まで)。
※豪華社宅を除く。
③ 社長が死亡した場合
・相続財産に含まれず、会社の株価に反映されることになります。
④ 社長が退職した場合
・土地建物を退職金の一部として現物支給することが可能です(時価で売却したものとして計算し、その時価相当額が退職金になります)。
退職金 4000万円 土地 3,000万円(簿価3,000万円、時価3,800万円)
建物 200万円
譲渡益 800万円
⑤ 社宅を売却した場合
・含み益がある場合は、繰越し欠損金と相殺でき、反対に含み損の場合は、繰越し欠損金を積み増すことができます。
個人で住宅を購入した場合
① 購入時
・資金調達 最長35年、低金利での融資が可能です。
・住宅ローンはフラット35のような公的融資もあり融資を受けやすいです。
・条件を満たせば住宅取得資金の非課税贈与の特例を受けられます。
② 所有期間中
・住宅ローン減税を受けられます。当初10年間のみ適用。 ※所得制限あり
③ 死亡した場合
・団体信用生命保険に加入していたらローン残額は免除されます。
・自宅の土地に対しては相続税の特定居住用宅地の適用の可能性もあります。
④ 相続税対策
・贈与税の配偶者控除(婚姻20年経過後)や相続時精算課税制度を使っての贈与が可能です。
⑤ 売却時
・居住用3,000万円の特別控除。
・5年超保有の軽減税率(所得税15%、住民税5%)。
・10年超所有の軽減税率(譲渡益6000万円以下所得税10%、住民税4%)。
・買換え・譲渡損失の損益通算、繰越し控除等の住宅に係る特例が使えます。
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