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不動産オーナーの相続対策とは?認知症になる前にしておきたいこと

認知症などにより判断能力が不十分になると様々な取引ができなくなります。本記事では、不動産オーナーが認知症になって意思能力を失う前に行うべき対策を紹介しています。

はじめに

認知症などにより判断能力が不十分になると様々な取引ができなくなり「資産凍結」の状態になってしまいます。凍結された財産は、たとえ家族であっても利用することができないため、資産凍結は本人を介護する家族の家計に大きな影響を及ぼします。

厚生労働省老健局の資料(令和元年9月6日)によると、令和7年には認知症の人の推計は約700万人になるとしています。認知症=意思無能力者ではありませんが、かなりの確率で意思無能力者になるといわれています。

意思能力がないと判断されると、あらゆる契約行為はできなくなります。つまり、アパート経営では、入居者とオーナー個人の賃貸借契約が結べなくなるということです。それ以外にも、契約の更新・解除や入居者退出時の原状回復の工事などでもオーナー個人の意思の確認ができないと、それらの業務が滞ってしまうことになります。

現状では、親族が代わって各種の手続きをしていることが多いと思われますが、厳密に言うと、法的には無効ということになります。民法(3の2)では、意思能力については「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と明記されています。

この意思能力の規定のポイントは、「意思表示をした時点を基準とすること」と、「意思能力のない行為が無効となること」の2点です。

認知症になる前に行うべき対策

不動産オーナーが認知症になって意思能力を失う前に行うべき対策には、以下のようなものが考えられます。

1. 成年後見制度の活用

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方を保護するための制度です。成年後見制度には、次のようなタイプがあります。

区分 対象となる方 援助者
補助 判断能力が不十分な方 補助人 監督人を選任されることがあります。
保佐 判断能力が著しく不十分な方 保佐人
後見 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 成年後見人
任意後見 本人の判断能力が不十分になったときに、本人があらかじめ結んでおいた任意後見契約にしたがって任意後見人が本人を援助する制度で、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、その契約の効力が生じます。

(出典:裁判所 裁判手続家事事件Q&A)

2. 不動産管理信託

信託とは、「委託者」が信託行為(たとえば、信託契約、遺言)によってその信頼できる人(受託者)に対して財産を移転し、「受託者」は委託者が設定した信託目的に従って「受益者」のためにその財産(信託財産)の管理・処分などをする制度です。

信託を設定する人が「委託者」、託された人が「受託者」、信託の利益を受ける人が「受益者」です。信託を設定する法律行為を「信託行為」といい、法が定める信託行為は、「信託契約」「遺言信託」「自己信託」であり、家族信託の場合には、これらを自由に選択できます。

不動産管理信託

【基本の仕組み】
① 委託者 父
② 受託者 信託銀行等(家族信託の場合は、例えば、「長男」)
③ 受益者 父
④ 信託財産 A不動産
父から受託者(信託銀行等)に所有者変更登記により名義変更の登記が行われます。

信託は受託者が信託財産の名義人となって管理・処分などを行うものであり、受託者に対する信頼が前提となっています。

受託者の義務は、信託法に規定されています。
①善管注意義務、②忠実義務、③分別管理義務、④信託事務の処理の委託における第三者の選任・監督義務、⑤公平義務、⑥帳簿等の作成等、報告・保存の義務等、⑦損失てん補責任等が定められています。

3. 不動産管理会社の活用

不動産管理会社のうち、転貸方式又は不動産所有方式によれば不動産オーナーの認知症対策に役立ちます。
転貸方式の場合、個人である不動産オーナーから不動産管理会社が一括で借上げして第三者に転貸しています。そのため、賃貸不動産の貸主は不動産管理会社ですので、転貸借人の入退去に伴う賃貸借契約の締結や修繕・管理などの業務は不動産管理会社が担うことになります。

この方式による場合、建物の所有者は個人のままなので、建物本体、建物付属設備(受水槽、浄化槽、エレベーター等)、構築物(門や塀等)の修繕や保守管理に関する費用、建物の大規模修繕などの費用は、個人負担となり、通常の不動産賃貸における費用、例えば、入退去時のクロス、壁、畳、フローリング等の改修費用、室内クリーニング費用、共用部分の水道光熱費や電球交換費用等は不動産管理会社の負担となります。

そのため、この方式によっても不動産オーナーが認知症になると、多額の費用のかかる大規模修繕などを行う際に支障が生じることになります。

一方、不動産所有方式であれば、そもそも賃貸不動産の所有者は不動産管理会社ですので、不動産オーナーの認知症には関係ありません。ただし、賃貸建物だけが不動産管理会社の所有で、土地の所有者が個人のままである場合には、土地の貸借について契約の更新や変更があるときや、その土地上の建物の建替えや、その土地を銀行の担保に提供するときなどには支障がでます。

建物だけの譲渡であれば時価=未償却残高と仮定すれば譲渡税は発生しませんが、土地も不動産管理会社へ譲渡する場合には、もともと土地の所有は先祖伝来のもので、土地を時価で譲渡することに伴い譲渡税の課税が発生する事例が多いと思います。
一長一短がありますので、それらのことを踏まえて、建物だけを不動産管理会社にするのか、土地も含めて不動産管理会社の所有とするのか慎重に検討しておかなければなりません。

4. 生前贈与

本来贈与は、恩恵・好意・謝意等の原因を動機としてなされるものですから法規範の対象外と考えられているのですが、近代民法は贈与を契約としてとらえて法的な拘束力を与えています。

民法上の贈与では、民法549条では、「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と規定し、このことから、贈与は、無償・片務・諾成の契約であるといわれています。

贈与は当事者の合意、つまり贈与者の「あげましょう」、受贈者の「いただきます」の意思表示があれば、書面によらずとも成立します。

法的内容 解   説

無償の契約 当事者の一方のみが経済的価値を支出する契約
片務の契約 当事者の一方のみが給付の義務を負う契約
諾成の契約 当事者双方の合意のみで成立する契約

不動産オーナーが認知症になってしまい判断能力を喪失してしまうと、せっかく入居を希望する人がいても、新たに賃貸借契約を締結することができなくなってしまいます。同様に、大規模な修繕に必要な契約も締結することもできなくなってしまいます。
そこで、意思能力があるうちに、生前贈与によって賃貸不動産などを子などへ移動しておく方法も考えられます。

5. 入居者の認知症対策

超高齢社会では、高齢者の入居は避けて通れないと思われます。また、高齢者を入居させないと空室リスクが高まる恐れがあります。

そこで、高齢者を入居させる場合の賃貸借契約は、「定期借家契約」によることが基本と考えられます。一般に行われている「普通借家契約」では、契約期間が満了しても正当事由がなければ、入居者が契約の更新を望めば退去させることは困難です。

しかし、定期借家契約であれば、契約期間が満了し、貸主が再契約をしないと決めれば、立退料等の負担はなく賃貸契約は終了させることができます。一方、特に賃貸を継続するのに問題がなければ、新たに定期借家契約によって再契約すれば賃貸契約を継続させることができます。

このように、定期借家契約であれば、契約期間満了によって貸主が賃貸契約を継続するか否かの決定権を有していることになります。定期借家契約の期間に制限は設けられていませんので、1年未満の期間で契約することも可能です。そこで、当初の賃貸借契約の期間は1年以下として、その後、期間満了によって入居者に問題がなければ再契約によってその期間を延長するなどの対応が考えられます。

一方、普通借家契約によって入居している入居者に認知症の兆候が見られたら、すぐに連帯保証人などに相談するようにします。認知症による生活のトラブルは段階的に起きることが多いので、日時と症状の内容を適宜記録し、こまめに連帯保証人などに連絡を取るようにします。症状の改善が見られない場合や悪化しているときには、今までの症状の記録などを連帯保証人などに書面で知らせて、入居の継続が難しい旨を理解してもらうようにします。そのうえで、合意によって賃貸契約を解除又は終了させるようにします。

もし、連帯保証人などと連絡が取れない場合や、対応を拒否されたときは、入居者の症状などを記録した資料を持参し、自治体の高齢者地域福祉担当に相談し、適切な対応に努めましょう。

6. 認知症になる前に

認知症は本人が気が付かないうちに徐々に進行し、物忘れと認知症が似ている(※)ことから、周りの人が注意していないと相当悪化してから認知症と診断されることがあります。
※ 例えば、物忘れは、食事したことは覚えているが何を食べたか覚えていない、一方、認知症の人は、食事したことすら覚えていない、という違いがあります。

誰もが認知症にならないようにと願っています。現在、認知症の進行を遅らせる薬はありますが、治癒させる薬や治療方法は開発されていません。
そこで、認知症になる前に、不動産オーナーは、①遺言書の作成、②生命保険の活用などによる「みなし贈与」の仕組みを作るなどの対応策を講じておくようにしましょう。

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