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譲渡所得で取得費が不明な場合の実務対応とは?代替方法のポイントを解説
譲渡所得における取得費とは
取得費に含まれる主なものは次のとおりです。ただし、事業所得などの必要経費に算入されたものは含まれません。
① 土地や建物を購入(贈与、相続または遺贈による取得も含みます。)したときに納めた登録免許税(登記費用も含みます。)、不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税
※なお、業務の用に供される資産の場合には、これらの税金は取得費に含まれません。
② 借主がいる土地や建物を購入するときに、借主を立ち退かせるために支払った立退料
③ 土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
④ 土地の取得に際して支払った土地の測量費
⑤ 所有権などを確保するために要した訴訟費用
これは、例えば所有者について争いのある土地を購入した後、紛争を解決して土地を自分のものにした場合に、それまでにかかった訴訟費用のことをいいます。なお、相続財産である土地を遺産分割するためにかかった訴訟費用等は、取得費になりません。
⑥ 建物付の土地を購入して、その後おおむね1年以内に建物を取り壊すなど、当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取壊しの費用
⑦ 土地や建物を購入するために借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
⑧ 既に締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金
譲渡所得の計算方法
譲渡所得の金額は、以下のように計算されます。
【譲渡所得の金額 = 譲渡収入金額 -( ①取得費+②譲渡費用 )】
① 取得費とは、売った土地や建物を買い入れたときの購入代金や、購入手数料などの資産の取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費を加えた合計額をいいます。
なお、建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。また、土地や建物の取得費が分からない、もしくは実際の取得費が譲渡価額の5%よりも少ないときは、譲渡価額の5%を取得費(概算取得費)とすることができます
② 譲渡費用とは、土地や建物を売るために支出した費用をいい、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、売却するときに借家人などに支払った立退料、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用などです。
譲渡所得で取得費が不明な場合にはどうすればいいのか?
譲渡価格の5%を概算取得費とする方法で算出する
買い入れた時期が古いなど、取得費が分からない場合には、譲渡金額の5%相当額を取得費とすることができます。また、実際の取得費が譲渡金額の5%相当額を下回る場合も、譲渡金額の5%相当額を取得費とすることができます。
市街地価格指数を使って推計する
「市街地価格指数」は、一般社団法人日本不動産研究所が、昭和11年9月から旧日本勧業銀行が宅地価格を調査し「市街地価格指数」としてとりまとめていたものを、昭和34年3月から日本不動産研究所が承継し、実施しています。この調査は、全国主要198都市で選定された宅地の調査地点について、日本不動産研究所の不動産鑑定士等が年2回価格調査を行い、これらを基に指数化するものです。
市街地価格指数は、昭和30年3月からは、「全国市街地価格指数」「六大都市市街地価格指数」及び「六大都市を除く市街地価格指数」に分類されて報告されています。
1985年(昭和60年3月)からは、地方別市街地価格指数や、三大都市圏別(東京圏、大阪圏、名古屋圏)市街地価格指数、三大都市圏を除く政令指定都市及び三大都市圏及び政令指定都市を除く県庁所在都市についても調査し、報告されています。
平成12年11月16日の公表裁決で、原処分庁が取得費不明の宅地の価額について、日本不動産研究所が公表している市街地価格指数を用いて、譲渡時の六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)と取得時の当該価格指数の割合を乗じて計算した金額によった処分について、審判所も、この算定方法は、日本不動産研究所が公表した数値であり、市場価格を反映した近似値の取得費が計算でき、合理的であると認められるとしました。
そのため、取得費が不明な宅地については、この方法によって算定することも一つの選択肢と考えられます。
● 市街地価格指数
全国市街地価格指数 | 六大都市市街地価格指数 | 六大都市を除く市街地価格指数 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
商業地 | 住宅地 | 全用途平均 | 商業地 | 住宅地 | 全用途平均 | 商業地 | 住宅地 | 全用途平均 | |
1955 S30.3 |
6.50 | 2.30 | 3.80 | 5.34 | 1.38 | 2.34 | 6.68 | 2.38 | 3.94 |
S30.9 | 6.89 | 2.44 | 4.03 | 5.55 | 1.49 | 2.48 | 7.08 | 2.53 | 4.18 |
31.3 | 7.41 | 2.62 | 4.33 | 6.19 | 1.58 | 2.69 | 7.54 | 2.71 | 4.46 |
S31.9 | 8.32 | 2.92 | 4.83 | 6.67 | 1.79 | 3.04 | 8.55 | 3.02 | 5.01 |
S32.3 | 9.49 | 3.31 | 5.55 | 7.31 | 2.07 | 3.49 | 9.75 | 3.41 | 5.76 |
S32.9 | 10.6 | 3.66 | 6.16 | 8.11 | 2.37 | 4.00 | 10.9 | 3.79 | 6.39 |
S33.3 | 11.4 | 4.07 | 6.77 | 8.58 | 2.63 | 4.40 | 11.8 | 4.19 | 6.99 |
S33.9 | 12.6 | 4.56 | 7.50 | 8.69 | 2.91 | 4.79 | 13.0 | 4.69 | 7.73 |
S34.3 | 14.0 | 5.04 | 8.38 | 9.22 | 3.25 | 5.28 | 14.6 | 5.19 | 8.56 |
S34.9 | 15.9 | 5.64 | 9.44 | 10.5 | 3.71 | 6.01 | 16.4 | 5.81 | 9.74 |
S35.3 | 18.3 | 6.19 | 10.7 | 12.3 | 4.18 | 6.87 | 19.0 | 6.36 | 11.0 |
S35.9 | 21.6 | 7.13 | 12.6 | 15.5 | 4.80 | 8.88 | 22.3 | 7.35 | 12.9 |
S36.3 | 25.0 | 8.54 | 15.2 | 19.7 | 6.01 | 11.5 | 25.7 | 8.78 | 15.6 |
2010H 22.3 |
100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
2021R 03.9 |
87.9 | 90.5 | 88.7 | 138.7 | 104.2 | 117.4 | 86.8 | 90.1 | 88.0 |
(出典:日本不動産研究所資料を抜粋し加工)
しかし、日本不動産研究所調べによる「市街地価格指数」を用いて土地の取得費を算定する方法については、その後の裁決で否定されているものが少なくありません。
① 平成20年10月28日裁決(東裁)
② 平成26年3月4日裁決(東裁)
③ 平成30年5月7日裁決(東裁)
④ 平成30年7月31日裁決(仙裁)
相続税路線価から取得費を推計する
国会図書館では、昭和30年から昭和47年までの全国の路線価図はマイクロフィルムで所蔵されているため、インターネットで取り寄せることができます。昭和48年以降は紙資料で所蔵し、現在デジタル化作業中で令和5年5月31日までに完了予定とされています。路線価は、昭和30年から昭和47年までは3.3㎡当たり1,000円単位で表示されています。
昭和48年以降は1㎡当たり1,000円単位の表示に変更されています。
なお、相続税の路線価は、平成4年分の評価から、評価時点をこれまでの前年7月1日の公示地価(基準地価)の70%程度の水準から、評価時点である当年1月1 日に変更するとともに、1年間の地価変動などを考慮し、評価割合を公示地価(公示価格)の80 %程度の水準を目途に評価されています。
以上のように該当地の路線価を基に、評価水準によって割り戻して取得費を推計する方法が考えられます。
地価公示価格から取得費を推定する
地価公示制度は、地価公示法に基づき国土交通省土地鑑定委員会が毎年1回標準地の正常な価格を公示し、一般の土地の取引価格に対して指標を与えるとともに、公共事業用地の取得価格算定の規準とされ、また、国土利用計画法に基づく土地取引の規制における土地価格算定の規準とされる等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
公示されるのは、毎年1月1日における標準地の単位面積当たりの正常な価格です。
この地価公示価格から取得費を算定すべきであるとする東京地裁(平成18年8月30日)判決があります。
5%を概算取得費として利用する際の注意点
市街地価格指数から判定すると、2010年(平成22年3月)を100とした場合に、概算取得費5%に満たないとされる年は、商業地は、統計開始以前の昭和29年以前、住宅地は、昭和33年9月~昭和35年9月まで、全用途平均では、昭和31年3月~昭和31年9月頃までと推定されます。
その後の年において取得した土地は、概算取得費以上の取得費によるものと思われます。
取得費不明の土地について、譲渡所得金額を求める場合に概算取得費によらず、日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」によって取得費を推計する方法、路線価地域であれば、取得年の路線価から取得費を推計する方法や、地価公示価格から取得費を算定することも検討してみることが必要と考えられます。
おわりに
取得費不明の土地について、概算取得費以外の方法によって取得費を推計し、その取得費で譲渡所得を求めて申告する場合には、税務上の否認を受ける可能性があります。そのため、お客様とのトラブル回避のために、課税庁から否認されたときの税負担などについて、書面による事前の説明が欠かせません。
その場合、税務リスクについての分担を明確にしておかなければなりません。
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