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相続時精算課税制度|活用する際の留意点やデメリットは?

令和5年度税制改正において、相続時精算課税制度の使い勝手向上を図る旨の改正が行われました。本記事では、相続時精算課税制度の改正及び活用の留意点について、実務に即した内容を解説いたします。

はじめに:相続時精算課税の概要

相続時精算課税制度は、平成15年度の税制改正において、次世代への早期の遺産移転と有効活用を通じた経済活性化の観点から導入されました。相続時精算課税の選択後は生前贈与か相続かによって税負担は変わらず、資産移転の時期に対して中立的な仕組みとなっています。

相続時精算課税は、納税者の選択により、暦年課税(個人が1暦年間に贈与により取得した財産の合計額から基礎控除額を控除した残額に一定の税率を乗じて税額を算出する課税方法)に代えて適用することができる贈与税の課税方法の一つです。

納税者が相続時精算課税を選択した場合には、当該贈与により財産を取得した納税者は、受贈時に1暦年間に贈与により取得した財産の合計額から特別控除額(累積2,500万円)を控除した残額に20%の税率を乗じて算出した当該贈与に係る税額を納付し、その後、当該財産を贈与した者について相続が発生したときは、当該受贈財産の価額を相続又は遺贈により取得した財産の価額に加算した合計額を課税価格として計算した相続税額から既に納付した相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除した金額を納付することとされています。

令和5年度税制改正において、贈与税の暦年贈与の改正と併せて、相続時精算課税制度の使い勝手向上を図る旨の改正が行われました。

相続時精算課税制度の活用によって相続税の軽減を図るためには、留意すべき点が多々あります。そこで、相続時精算課税制度の改正及び活用の留意点について、実務に即した内容を解説することとします。

なお、設例などの数値は、解説の内容を理解しやすいように、金額の単位は万円とし、計算においては万円未満の金額は原則として四捨五入して表示していますので、一定の誤差が生じることについてご留意ください。

1. 相続時精算課税によって贈与すると相続税の軽減効果が期待できる財産

相続時精算課税を活用した贈与によって相続税負担を軽減させようとする場合には、贈与を受けた財産は、特定贈与者の死亡の際には、贈与を受けたときの価額で相続財産に加算して相続税が課税されることとなっていることから、以下のような財産を贈与することがポイントです。

 ① 贈与を受けたときから特定贈与者が死亡するまでの間に、大きく値上がりすると予想される財産

 ② 毎年大きな果実を生む財産

以上のような財産の贈与以外にも、相続時精算課税制度を選択することが有利になることがあります。

【設例】
1. 被相続人 母(令和16年死亡すると仮定)
2. 母の相続財産(令和6年) 自宅 2,200万円、現預金2,000万円
3. 相続人 長男(母と別生計で持家あり)一人
4. 生前贈与(令和6年から以下のいずれかの贈与を実行する) 
 ① 長男へ暦年贈与によって毎年110万円の暦年贈与(10年間)を行う
 ② 長男に相続時精算課税贈与によって毎年現金110万円の贈与(10年間)を行う

暦年贈与 相続時精算課税贈与(※2)
課税価格 (2,200万円+900万円)+670万円(※1)=3,770万円 2,200万円+(2,000万円-1,100万円)=3,100万円
相続税 (3,770万円-3,600万円)×10%=17万円 3,100万円-3,600万円<0 ∴ 相続税は課されない

(※1)生前贈与加算:110万円×7年-100万円=670万円
(※2)相続時精算課税贈与:年110万円以下の贈与については、相続財産に加算されません。

令和6年以後の暦年贈与によると、相続又は遺贈によって財産を取得した者が、その被相続人から相続開始前7年以内に贈与を受けていた場合には、生前贈与加算の期間が7年になります。ただし、相続開始前3年超7年以内に贈与により取得した財産については、総額100万円までを控除することとされました。

一方、相続時精算課税贈与の場合には、毎年110万円の基礎控除額以下の贈与については、贈与税の申告は不要で、かつ、相続財産への加算も必要がありません。
そのことから、相続時精算課税では10年間の控除額が最大1,100万円であるのに対して、暦年課税では相続開始前7年より前の贈与額(110万円×3年)と100万円の合計額430万円が相続財産に加算されないため、相続時精算課税贈与が有利になることがあります。

ただし、相続人でない孫への相続時精算課税贈与は110万円を超える贈与金額は、全額相続財産に加算されますが、暦年贈与によって贈与すれば、孫が遺贈によって財産を取得しない場合には、相続財産への加算は必要なく、贈与税の課税関係だけで完結します。
そのように、有利・不利が混在しますので、相続時精算課税の選択に当たっては慎重に判断しなければなりません。

2. 相続時精算課税を選択した場合のデメリット

(1)一度選択すると暦年贈与に戻れない

相続時精算課税の贈与を選択すると、生涯継続して適用されることとなり、特定贈与者からの贈与については、暦年贈与制度に戻ることはできません。

(2)相続時精算課税贈与を受けた宅地等は、小規模宅地等の特例の適用が受けられない

小規模宅地等の特例の適用については、相続又は遺贈により取得した財産に対してこの特例の適用が認められており、贈与を受けた土地が相続税の計算上相続財産に加算された場合においても、小規模宅地等の特例は適用されません。

(3)相続時精算課税による贈与財産は物納適格財産に該当しない

相続税の納付は現金一括納付が原則であり、一括納付が困難であればその範囲内で延納 が、さらに延納によっても納付が困難な範囲内で物納が認められています。

その物納に充てることができる財産は、その相続税の課税価格計算の基礎となった財産(その財産により取得した財産を含みます。)ですが、相続時精算課税による贈与財産は適用除外となります。

(4)贈与財産の価額が値下がりした場合

相続時精算課税による贈与を受けた財産の価額が、相続時精算課税に係る贈与者の死亡までの間に値下がりした場合には、他の共同相続人の相続税の負担にも影響を与えます。

相続時精算課税によって贈与した財産が、相続開始時に値下がりしていても、贈与を受けた価額によって相続財産に加算されることになるため相続税の総額は高くなり、相続人全員の相続税も連動して増加します。そのため、贈与する財産の選択と贈与のタイミングについては、慎重に検討しなければなりません。

(5)受贈者が相続税を支払うことができない

相続時精算課税による贈与を受けた者が、相続時には遺産を取得しないこととしている場合に、先行取得した財産を相続税の納税までに消費等しているときに、相続税を納付することができなくなる場合も予想されます。その場合には、共同相続人相互間など一定の者において、互いに連帯納付の義務があり当該相続人の相続税を納付しなければなりません。

(6)相続時精算課税適用者が先に死亡した場合

特定贈与者の死亡以前にその特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合には、その者の相続人(包括受遺者を含みます。)は、その者が有していたこの規定の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継します。

死亡した相続時精算課税適用者の相続人は、その後その特定贈与者の相続時に、相続時精算課税適用者を受遺者とみなし、その受贈財産を特定贈与者の遺贈財産とみなして計算した相続税額から既に支払った贈与税額を控除した税額を納付する(控除する贈与税額が多い場合には還付を受けることができます。)こととなります。

【設例】相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継等があった場合の相続税の計算
1. 被相続人 父(令和6年1月死亡)
2. 相続人 子(甲:令和4年3月死亡)、甲の代襲相続人:甲の子(乙、丙)
3. 相続時精算課税贈与 
 甲は父から令和2年にA土地(贈与時の評価額1億円)の贈与を受け、贈与税額1,500万円を納付した
4. 父の相続財産と遺産分割
 現金10,500万円のみで、乙と丙がそれぞれ1/2ずつ相続した
5. 葬式費用
 500万円を、乙と丙がそれぞれ1/2ずつ負担した
6. 乙及び丙の年齢
 乙は16歳、丙14歳。過去に未成年者控除の適用を受けていない
7. 相続税の計算

(単位:万円)
合計額 承継相続人としての乙、丙
取得財産の価額 10,500 5,250 5,250
相続時精算課税適用財産の価額 10,000 10,000
債務控除額 △500 △250 △250 適用なし
課税価格 20,000 5,000 5,000 10,000
相続税の総額 3,340 3,340
按分割合 1 5,000/20,000 5,000/20,000 10,000/20,000
算出税額 3,340 835 835 1,670
未成年者控除額 △60 △20 △40 適用なし
相続時精算課税分の贈与税額控除額 △1,500 △1,500
小 計 1,780 815 795 170
承継割合
(法定相続分)
1 承継割合に
より承継  1/2
承継割合に
より承継  1/2
承継納税額 170 85 85
納付すべき税額 1,780 900 880

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