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【税理士向け】取引相場のない株式 | 事業承継時の株式の譲渡価額は「承継価額」

株式の評価方法について

一般に株式の評価、特にここでは中小零細企業の株式は取引相場が無いので、相続税法財産評価基本通達(以下、「財評」)では、相続税の課税価額としての計算方法として、
①純資産価額方式
②類似業種批准方式
などを定めています。しかし、この方法はあくまでも相続税における税計算を前提としているものであり、相続税法第22条における時価というものを算定するための一手法としてのものです。事業承継における株式譲渡価額については、税法上特段にその評価額の算定方法を定めた決まりはありません。

しかし、一般的には、相続税評価を基本とする、もしくは前提とする評価算定方法を採用している事例が多く存在します。果たしてそのような評価方法が事業承継における時価を計る方法として適切なものかどうか、その趣旨に沿うようなものであるかどうかなどを検証することが必要であると思われるので、その点について解説します。

財産評価基本通達に定める株式の評価方法

財評に定める評価方式は、あくまでも相続税や贈与税申告における課税価額の計算をするための方式の一つであり、後継としての次期経営者に対して譲渡する際における価額を決定するためのものではありません。また、財評=時価ではないことは相続税法第22条の考え方からみても明らかです。

財評は時価の算定方式の一つであるということの認識がない、もしくは認識があっても他の時価の算定方法を考えようともしないので、事業承継においても財評を採用するというような一律的な方法しか用いることができないのです。これでは、納税者が不必要な税金を払うか、有りもしないような時価を作り上げられて、納税猶予等のスキームに導かれていることに他ならないのです。
評価が高いから事業承継が難しいのではなく、在りもしないような理論上の数字を時価として評価するようなことがあるから事業承継が難しい訳です。

税法における株式などの評価手段

相続税法は保有している財産などに対する課税であるので、経済取引を前提にしている法人税法や所得税法などにおける時価の考え方とは異なるものであると考えられます。何故なら、その課税関係が相続により取得した財産に対する課税である相続税法、一般の経済取引、商取引における取引価額を前提として課税する法人税法や所得税法とは、その意を異にします。
また、法人税法や所得税法上の時価において、財産評価通達を準用している通達もありますが、これはあくまでも一定の要件などを満たしたうえでの採用であり、杓子定規に適用するものでないことは、評価の趣旨ということを鑑みれば自ずとわかることです。

法人税基本通達9-1-14

皆様が良く使われる法人税法基本通達(以下、「法基」)9‐1‐14はあくまでも、有価証券の評価損を計上するときの時価を定めたものであり、これを事業承継における株式評価に当てはめることは出来ないと考えられます。

しかも当該通達は「課税上弊害がない限り-」としており、そのまま安易に適用されるものでもありません。この「課税上弊害がない限り-」ということの意義を理解することが必要ですし、何故このような文言が入っているのか、そのことが大事なのではないでしょうか。つまり、評価損を計上するときの評価を算定する場合には、財産評価基本通達を前提にして一定の要件を満たせば、それにより算定した評価額を時価とし、計上簿価額等との差額を評価損として計上できるとするものです。
そうすると、この「課税上弊害がない限り-」というのは、「財産評価基本通達を基に計算した金額が本来の時価に近いものでなければならない」、言い換えれば「当該時価よりも低い場合には評価損を利用して法人税を軽減しようとする意思がない限りは、当該評価額を結果的に時価として容認する」という趣旨であると考えられる訳です。

つまり、法人税の軽減、言い換えれば租税回避行為がない限りにおいて採用するということがその本旨であると考えられるのです。そうでないと、評価損失計上における時価算定のところに、当該評価算定に係る株式評価額を通常の譲渡における適用することに疑問を感じ得ません。そうすると、このようなケースに事業承継目的での適用場面は考え難いと考えられます。

所得税法基本通達59-6

同じく所得税法基本通達(以下、「所基」)59‐6は、あくまでも所得税法第59条1項を適用する場合に適用することができるものであり、それはあくまでも個人と法人間における取引ですから、事業承継等のような個人間取引における適用などは出来ないと考えられます。この通達については、何故個人間同士での取引にまで実務において適用されているのか、そのところの理由はわかりません。むしろ教えて欲しいと思います。準用する、援用するというような文言もないからです。

当該通達自体は、いわゆる低額譲渡における時価との差額の関係を求めており、その関係性においては実際の取引価額と当該通達に拠り算定した価額との差を課税すべきとするものであり、この考え方のどこに個人間での取引における時価算定の根拠があるのでしょうか。

法人税基本通達9‐1‐14及び所基59-6

これら通達を個人間同士での株式の譲渡における評価額の算定において適用することの根拠が仮に通達まで下りても見当たりません。現実にはこれら通達しか株式評価手続きが定められていないのと、時価の概念がそんなに変更されるものでないことから単純に遣われているに過ぎないと考えられます。
まるで根拠の無いような価額を事業承継における譲渡価額として採用することに大きな問題があるように思えてなりません。

事業承継における価額

事業承継の場面で、株価が高いから譲ることもできないと言われることがあります。果たしてそうなのでしょうか。それは事業承継の本旨を理解せずに、しかも次の世代に上手く会社を承継させて、スムースに経営権などを移譲するということをその目的とする事業承継の本質を失わせるような行為であると考えられます。

事業承継においては、相続税は関係ありません。譲渡ではなく、贈与となれば確かに相続税評価というものが考えられますが、それにしても相続税評価とは切り離して考えなければならないように思います。事業承継の意義を税の計算において失わせることはしてはならないことであると考えています。また、その本質を歪めるわけにはいかないのです。

また、経営権と株主としての権利は別物ですから、代表者交代と株式譲渡を同時に行うことも必ずしも必要ではありません。事業承継とは、事業のスムースな承継つまり当該企業が将来的に伸びていくということも視野に入れたスキームや税計算を考えなければならないと思っています。

では、事業承継における価額はどのようにすれば良いのでしょうか。
事業承継という行為は、株式の譲渡による売買益を得ることを目的として行うものではありません。また、相続税評価は相続税の計算を前提として行う手法です。さらに法人税や所得税は、経済取引としての一環ですから、当然売買益を得ることを目的とするものです。そうすると、通常価額よりも安く買うような取引が存在すれば、当該安く売買した部分の金額を経済的利益として課税されることもあり得るところから、所得税法や法人税法は個々に課税関係を生じさせるための規定を設けています。そのことにより、事業承継における株価というものは、通常売買を前提としたものではないので、スムースに委譲し易い価額を単純に決定すれば良いのではないでしょうか。

ならば、額面による譲渡でも問題は無いと考えられますし、また、必ずしも相続税評価額に拠らなくても何ら問題は無いと考えられます。むしろ、相続税評価額を前提とした算定方法こそ、特に株式評価の場面においては、不必要なものでしか無いようにも思われますね。
ちなみに、中小企業庁が発遣している事業承継における株価評価マニュアルをみても、相続税評価額を採用するような記述は見当たりません。事業承継の場面において、税理士は、もう少し納税者のことを考えながら仕事をすべきではないかということを思い知らされるようです。
事業承継における株価評価を真剣に考えてみませんか。

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