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【弁護士向け】物流「2024年問題」とは?対策と4月1日までにすべきこと

働き方改革関連法の物流業への施行が迫り、2024年問題が話題になっていますが、弁護士の先生方においては、ぜひこの機会を物流業者の顧問先獲得へ活かしてほしいと思っています。本記事では2024年問題における変更内容と主な対策について、まとめました。

物流の2024年問題とは

物流の「2024年問題」とは、トラックドライバーなどの自動車運転者の労働環境改善のため、働き方改革関連法により定められた時間外労働や休息時間の規制が新しく施行されることによって生じる物流問題のことです。
働き方改革関連法における時間外労働規制等については、他業種では一足先に施行されていましたが、インターネット通販等により需要が増加した物流業においては、その適用が猶予されていた状況でした。
経済産業省の資料によると、今回の改正適用後に何も対策を行なわなかった場合、不足する輸送能力の割合は2024年度で14.2%、2030年度では34.1%と予測されています。

出典:経済産業省『持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ』

配送ドライバーを抱える物流企業では、今回の施行に関する適切な対応が求められます。

物流業の時間外労働の上限規制

前述した通り、これまで時間外労働の上限規制が適用猶予されていた物流業でも、2024年4月1日からいよいよ適用が開始されます。
法改正により時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間となり(休日労働除く)、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、年間の時間外労働の上限が年960時間以内となります(休日労働除く)。

もっとも時間外労働と休日労働の合計についての「月100時間未満」、「2~6か月平均80時間以内」は適用されません。また時間外労働が45時間を超えることができるのは「年間で6か月まで」とする規制も適用されません。

ポイント

・特別条項付きの36協定を締結している場合の年間の時間外労働の上限は960時間
・時間外労働+休日労働の月100時間未満は適用されない
・時間外労働+休日労働の2~6か月平均80時間以内は適用されない
・時間外労働45時間超が年間6か月までは適用されない

また物流業では、改正「改善基準告示」も2024年4月から適用が開始されます。例えばトラック運転者の場合は次のような休憩時間を含めた総拘束時間等のルールが適用されます。

例:トラック運転者の場合

適用前 適用後
1年の拘束時間 3,516時間 原則:3,300
最大:3,400時間
1か月の拘束時間 原則:293時間
最大:320時間
原則:284時間
最大:310時間
1日の休息時間 継続8時間 継続11時間を基本に、継続9時間 ※例外あり
1日の拘束時間 13時間 13時間(延長する場合の限度は15時間) ※例外あり

なお36協定や改善基準告示の拘束時間等延長の労使協定について、2024年3月31日以前に締結し、有効期間が2024年4月1日をまたいでいる場合、4月1日開始の協定を結び直す必要はなく、同日以降に新たに定める協定から新規定に対応することでよいとのことです。

物流業に影響する法改正

物流業に限らず2023年4月1日から、中小企業で時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金率を50%以上とする法改正がなされています。慢性的に長時間労働があったり、休憩時間か待機時間(労働時間)かで疑義が生じたりしやすい物流業においては、隠れ未払い残業代の問題が発生しやすく、時間外労働の割増率の影響を受けやすくなります。

また、2020年4年1日から労働基準法の消滅時効が変更となっており、2020年4月1日以降に発生する賃金請求権の消滅時効期間が5年に延長になりました(年休等2年の請求権は、現行の消滅時効期間を維持)。
もっとも、経過措置として、賃金請求権の消滅時効、賃金台帳等の記録の保存期間、割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間は、当分の間は3年とされています。実務上、近時の残業代請求は過去3年分の請求が主流になっており、上記と同様、隠れ未払残業代が生じやすい物流業ではその影響を受けやすいといえます。

2024年4月までに検討すべきこと

では実際に施行される2024年4月までに何をすべきなのでしょうか。いくつか検討すべきポイントを記載しました。

(1)時間外労働の上限規制、改善基準告示の範囲内に収まっているか

まず大前提として、現時点で時間外労働の上限規制、改善基準告示の範囲内に収まっているかを確認する必要があります。収まっている場合でも、本当に収まっているか?隠れ労働時間がないか?等を確認する必要がありますし、この機会に労働時間管理の徹底、賃金制度に不備がないかも再確認した方がよいでしょう。

収まっていない場合には、労働時間を減らすための施策が必要になります。簡単ではありませんが、荷主と交渉して待機時間を減らす、運賃交渉をする、不効率なコースを打ち切るなどの検討が必要になりますし、今まで以上に運行管理を徹底して労働時間を減らす対策を講ずる必要があります。

(2)時間外労働の上限規制により起こり得ること

時間外労働の上限規制を遵守するように労働時間の削減を講じたことによって、法規制はクリアできるとしても、別の問題が生じ得ます。
「労働時間が減るのは良いが収入が減るのは困ります」、「このままでは生活ができないので過去の残業代を請求させていただきます」「そもそも現在の賃金制度はおかしくないでしょうか?」などの形で、現在の労働時間の考え方、管理方法の適否、現在の割増賃金の支払い方法の適否が正面から問題になる可能性があります。

それは、物流業に特有の賃金制度に起因しています。
すなわち物流業の経営者の思いとして、「頑張った者には、たくさん払ってやりたい。」、「1日いくら、という形で分かりやすくしたい。」、「ドライバーは賞与まで待てない。毎月の手取りで考えたい。」、「月にいくらという形で保証したい(月額を大きく見せたい)」、「段取りがよい者が稼げず、ダラダラしている者が稼げるのはおかしい」等から、時間にかかわらず賃金が設定されていたり(1日いくら、月額いくら)、たくさん走った分だけ賃金が増えたりする設定(歩合、時間給)がなされていることが多くあります。

そうすると、①労働時間を管理していない給与の支払いはおかしいのではないか?との疑問や、②労働時間が減ることでこれまでのように歩合や残業代を稼ぐことができなくなり収入が減るという不満につながります。
もちろん②については、今までが長時間労働を前提にした収入であり、法律に則った労働時間に基づいて支払うということ自体は違法なことではありませんが、結果として収入源につながるため、労働時間か否か、そもそもの賃金制度に不備はないのかという点に労働者の目も向くことになります。
したがって、時間外労働の上限規制が本格的に始まるのと同じくして、グレーな労働時間管理やグレーな賃金支払い方法が問題として顕在化すると思われます。

物流業における賃金制度

物流業においては様々な賃金制度が採用されていますが、主なものをご紹介します。それぞれメリット、デメリットがあります。実際には安全手当、無事故手当、作業手当、住宅手当、家族手当など諸手当が支給されていることがあるとは思います。

日給制

日給制は、1日あたりの給与を決める方法です。
1日働けばいくらもらえるか、1か月に何日働けばいくらもらえるかが分かりやすい点がメリットです。しかし、日給制における「1日あたり」は、基本的に所定労働時間を指します。ところが経営者が「1日=その日の総労働時間」と認識していることがあり、隠れ未払いが発生している可能性があります。日給制であっても残業代の支払いが必要になります。

これまできちんと残業代を支払っている場合は、時間外労働の上限規制の影響により、労働時間が減ることで収入が減る可能性があります。そのため、割増賃金を時間外労働の上限ギリギリまで得ようとしてダラダラ運行、遠回り運行のリスクが発生する可能性があり、労働時間管理、運行管理を徹底する必要があります。

一方で、今まできちんと残業代を支払っていない場合(1日=その日の総労働時間と認識)には、残業時間が減っても手取りは減らないかもしれないですが、そもそも今の賃金制度は間違っていないか?ということで未払い残業代問題に発展する可能性があります。

時給制

時給制は、1時間あたりの給与を決める方法であり、分かりやすい制度です。
ただ求人を出す場合になかなか応募が集まらないというデメリットがあります。日給制と異なり1時間あたりで給与を支払うため、日給制のような「1日=その日の総労働時間」という誤解が生じにくく、時間管理、運行管理が適正になされている場合には未払い残業代の問題になりにくいというメリットがあります。

過去に固定残業代や歩合給の有効性を含む未払い残業代問題に巻き込まれた企業では、争点をなくしてシンプルな形で管理しようということで、時給制を採用しているケースもあります。時間外労働の上限規制による労働時間の減少が直接に収入減に直結することから、時給単価のアップに関する労使交渉に発展したり、日給制と同様にダラダラ運行、遠回り運行のリスクが発生したりする可能性があります。

完全歩合制

完全歩合制は、運賃や走行距離、運行回数などの成果に基づいて賃金を決定する方法で、やる気のある運転手には魅力的な制度です。ただ1か月の労働日数に影響を受けるなど、様々な要因によって成果が上がらないこともあり、将来の収入についての見通しが立ちにくく、求人において苦戦することがあるようです。もっとも貢献してくれる運転手に多く支払いたいという経営者の思いに合致する制度です。

なお歩合制度においても、歩合に対する割増賃金の支払いが必要になります。しかし歩合給に対する割増賃金については、一般的な割増賃金の計算方法と異なり、総労働時間で割って単価を出し、25%(100%部分は不要)の割増でよいというメリットがあります。

例えば、歩合給30万円、所定労働時間が168時間、労働時間が268時間の場合の割増賃金は「30万円÷268時間(総労働時間)×0.25×100時間(残業時間)」となります。
ただ物流業の場合には、その性質上、運転時間等によって歩合額が左右される傾向にあり、時間外労働の上限規制で労働時間が減少することによって、今までのような運行回数、運行距離に達せず、結果として収入の減少につながります。そのため歩率アップ等についての労使交渉に発展する可能性があります。

固定残業代制度

固定残業代制度は、基本給や歩合給とともに、あらかじめ一定の時間外労働の対価として固定残業代を支払う方法です。基本部分についても、歩合部分についても割増賃金が発生するので、それを固定残業代の支払いで賄うという考え方です。

固定残業代については、
・その導入自体が正しくなされているか
・設定時間は問題ないか(時間数が多すぎないか)
・残業代の対価として支払われているか(対価性)
など、その有効性が問題になることがあり、無効と判断された場合には、基礎単価の増加、多額の未払いが生ずるなどのリスクがあります。

最近の裁判例は、固定残業代の有効性の要件として、何時間分の残業代であるかの明示や、割増の種別(通常時間外、60時間超の時間外、休日労働、深夜割増)の区別までは要求していないように思われます。賃金規程がなく、差額精算の規定もなく、実際に差額精算もおこなっていなかった事案(F社事件・大阪地裁令和3年1月12日判決)でも固定残業代が有効と判断されています。もちろん、金額だけではなく、その支払いに対応する残業時間数まで明示するのが望ましいとはいえます。

固定残業代は何時間分の設定なら大丈夫か

また「固定残業代は何時間分の設定なら大丈夫か?」というご質問をよくいただきます。
裁判では、時間外勤務手当約60時間相当分の有効性が争点になった事案(S事件・名古屋地裁令和5年2月10日判決)で、裁判所は「原告は、月約60時間の時間外勤務について固定残業代を定めていることが異常な長時間であり、無効であると主張する。しかし、月60時間の時間外勤務は36協定の上限を超えるものではあるが、固定残業代の定めは月60時間の残業を義務付けるものではなく、公序良俗に反して無効とまではいえない。」と判断しています。

では物流業の場合はどうでしょうか。
通常の業種との違いをどこまで評価してもらえるかについては未知数ではあるものの、時間外労働の上限規制の960時間を意識して、80時間でも良いという考え方もあるかもしれません。そもそも固定残業代は必ず80時間働かせることを前提としていないからです。
ただ過労死基準との関係で80時間を設定するのはリスクがあると思われますし、実際に80時間を超えて恒常的に時間外労働があるような場合は、有効性について疑義が生ずる可能性が高いといえます。

割増賃金の支払い方法

このように物流業においては様々な賃金制度があり、そのため割増賃金の支払い方法も様々です。もっとも最近では、基本的な賃金に対する割増賃金に調整手当という時間外手当を支払い、もともと予定していた賃金総額になるように支払っていた事案(最高裁令和5年3月10日判決)がありました。

本事案においては、
・実質は時間外労働等の有無やその多寡と関係なく決まった賃金総額を超えないようにするために、今までの基本歩合給を調整手当という名目の割増賃金に置き換えて支払うものであり、全体の割増賃金の中に通常の労働時間の賃金(基本歩合)として支払われるべき部分をも相当程度含んでいること
・割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない
といった理由により、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないとして、割増賃金の支払いとはいえないと判断されました

といった理由により、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないとして、割増賃金の支払いとはいえないと判断されました。

しかし、一方でこの事件の高裁判決では、就業規則の不利益変更が有効と判断され、その点は確定しています。この会社は、もともと賃金の支払い方法が就業規則と一致していないという不備があり、それを就業規則の変更によって是正したという経緯があり、そのような就業規則の変更は有効と判断されています。

このことは非常に画期的です。不備のある就業規則がある場合、それを補正することの必要性を裁判所も一定程度は許容しているのではないかと思います。今までは、不備のある就業規則を是正しようにも、不利益変更の議論に巻き込まることから躊躇しやすい部分でした。

就業規則の変更による不利益変更についてはその有効性が認められるハードルは依然として高いのですが、物流業においては、時間外労働の上限規制の開始を目前にして労働時間管理を適正に管理することを目的にし、かつそれを前提に賃金制度を正しく改善することを前向きに検討する良い機会ではないかと思われます。

このあたりの詳細や労働時間管理については、セミナーの方で解説しておりますので、ぜひご覧ください。

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