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役員退職金における議事録の重要性 | 株主総会や取締役会の決議要件を解説

社長が一度退職して、従業員に戻る際に、役員退職金を支払いますが、その際によくその金額が問題となります。どんなに適正な退職金額を支払ったとしても、法的な手続きを無視すれば、当然否認されてしまいます。
本記事では役員退職金の金額を決める株主総会・取締役会における議事録やその流れ、要件について解説します。

役員退職金における議事録の重要性

会社法では会社が一定の法的な行為を行う前提として、取締役会や株主総会での決議を求めています。税務調査対策として、さらに少数株主対策として、会社の意思に基づく機関決定を示す議事録は大変有効です。税務調査時には積極的にこれら議事録を開示し、会社としての意思決定を示すことで税務面での防衛対策となります。

議事録はその行為を行う法的な根拠になると共に、内部統制の有効性を表すため、恣意的な行為や操作の疑いを晴らす手段としての価値もあります。役員退職金を支給するにあたっては、これに関する規程があるだけでは足りず、株主総会と取締役会の決議に係る議事録が必要になります。なおいずれの決議も、議決権を有する者の全員が賛成した場合には「みなし決議」が可能ですので、必ずしも実際に開催する必要はありません。

みなし決議とは

株主総会について、議決権を行使することができる株主の全員が書面または電磁的方法(インターネット)で株主総会の目的である事項について同意の意思表示をしたときは、実際に株主総会を開催しないで決議するみなし決議が可能です(会社法319条1項 株主総会のみなし決議)。なお、みなし決議の場合であっても議事録の作成は必要になります。

また取締役会を開催することが難しい場合には、定款に定めを置いたうえで、議決に加わることのできる取締役が書面または電磁的記録により議案である提案に同意する意思表示をした場合、業務監査権限を持つ監査役がいる会社(監査役設置会社)では監査役が異議を述べた時を除いて、その提案を可決する旨の取締役会決議があったものとみなすことができます(会社法370条 取締役会のみなし決議)。この場合も議事録の作成は必要です。
さらに上記のみなし決議以外にも、株主総会と取締役会は書面または電磁的方法(インターネット)による議決権行使も可能です。

役員退職金を支給するまでの流れ

役員退職金については、以下のような流れで支給までの手続きを進めます。
1.株主総会の開催
2.取締役会の開催
決算の承認のような通常の機関決定の承認の順序は、取締役会、次いで株主総会の順に行いますが、ここではその順序が逆になっている点に御注意ください。

株主総会で支給金額まで決めてもよいのですが、通常は支給金額、時期、支給方法については、取締役会へ一任するのが一般的です。これは株主総会で金額まで決定しようとすると、株主の中から反発する者がでてきて、揉め事になりやすいことがあるためです。
ただし無条件に一任するのではなく、会社規程等による支給基準を株主総会が推測することができる限りにおいて、当該基準に従った支給を委任することが必要になります。

この株主総会決議を受けて取締役会決議により支給金額、時期、支給方法を決めることになりますが、これについても会議を実際に開催しないみなし決議での決議が可能です。この株主総会決議を受けて取締役会決議により支給金額、時期、支給方法を決めることになります。

役員退職金に係る株主総会の決議要件

役員退職金に係る株主総会決議は会社法361条1項による普通決議によります。株主総会の普通決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で行います(会社法309条1項)。

株主総会の議事についても、法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければなりませんが、株主総会では取締役会とは異なり、出席した取締役・監査役は署名または記名押印する規定はなく(会社法318条1項)、出席した取締役・監査役と議事録を作成した取締役の記名で足ります(会社法施行規則72条3項4号、同6号)。しかし、実務上は署名または記名押印している例が多いようです。ここでいう署名とは本人の自書のことであり、記名は印刷された氏名のことです。

この株主総会の議事録は株主総会の日から10年間、本店に備え置く必要があり、株主等は必要があるときはその閲覧、謄写を請求することができます(会社法318条2項、4項)。
なお会社法施行規則では、株主総会議事録は以下の事項を内容としたものでなければならないと規定しています(会社法施行規則72条3項)。

(1)株主総会が開催された日時及び場所
(2)株主総会の議事の経過の要領及びその結果
(3)監査役等により株主総会において述べられた意見又は発言があるときは、その意見又は発言の内容の概要
(4)株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又の氏名又は名称
(5)株主総会の議長が存するときは、議長の氏名
(6)議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

役員退職金に係る取締役会の決議要件

これに続く取締役会決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定めた場合にはその割合以上)が出席し、その過半数((これを上回る割合を定めた場合にはその割合以上)で行います(会社法369条1項)。

この決議について、これから退職する取締役は特別の利害関係を有するため、議決に加わることができませんので、他の取締役の賛成が必要になります(会会社法369条2項)。
なお、役員退職金の支給対象者が既に取締役を退職している場合は、上記の問題は起こりません。また、出席した取締役及び監査役は、議事録への署名または記名・押印が必要です(会社法369条3項)。そして取締役会決議に参加した取締役であって、議事録に異議を留めない者は、その決議に賛成したものと推定されます(黙示の許諾)ので、決議に反対である場合には、その旨を議事録に記載しておく必要があります(会社法369条5項)。

会社法では、法務省令に従って取締役会議事録を作成することを求めており(会社法369条3項)、これを受けて会社法施行規則では、取締役会議事録は以下の事項を内容としたものでなければならないと規定しています(会社法施行規則101条3項)。

(1)取締役会が開催された日時及び場所
(2)特別取締役による取締役会であるときは、その旨
(3)定款等で定められた招集権者以外の者が招集した場合は、その旨
(4)取締役会の議事の経過の要領及びその結果
(5)決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役があるときは、当該取締役の氏名
(6)会社法に定める規定により取締役会において述べられた意見又は発言があるときは、その意見又は発言の内容の概要
(7)取締役会に出席した執行役、会計参与、会計監査人又は株主の氏名又は名称
(8)取締役会の議長が存するときは、議長の氏名

ここで上記の(2)、(3)はイレギュラーなケースであり、(1)、(4)、(5)、(6)、(7)及び(8)が通常の取締役会での議事録の記載事項です。この取締役会議事録は取締役会の日から10年間、本店に備え置く必要があり、株主等は必要があるときはその閲覧を請求することができます(会社法371条)。なお、取締役会を設けている場合には取締役会決議によるものであっても、取締役会を設けていない場合には株主総会決議によることが必要になります(会社法295条1項、2項)。

役員退職金の計算方法

役員退職金の計算方法として最も一般的な方法は「功績倍率方式」です。功績倍率方式での役員退職金の損金算入限度額は以下のようになっており、これを超える額が不相当に高額であるとして損金不算入になります(法人税基本通達9-2-27の2)。役員退職金は原則として損金の額に算入されますが、これに関して税務上の歯止めをかけたわけです。

役員退職金= 最終報酬月額 × 役員勤務年数 × 功績倍率

法人税基本通達9-2-27の2(業績連動給与に該当しない退職給与)
いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、法第34条第5項((業績連動給与))に
規定する業績連動給与に該当しないのであるから、同条第1項((役員給与の損金不算入))
の規定の適用はないことに留意する。(平29年課法2-17「十二」により追加)
(注) 本文の功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の
法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額
が算定される方法をいう。

功績倍率は何倍まで認められるのか

過去の裁判例では、この功績倍率が何倍まで認められるかが争点になっている例がほとんどです。
ここで功績倍率については東京地裁判決(2013年3月22日)において、同業種の平均功績倍率を採用するべきとされており、経営のトップである社長で3倍と言われています。この3倍の数値は東京高裁判決(2018年11月18日)において社長の功績倍率3倍が示されたことが大きいと思われます。

ただし、3倍を超えるケースが一律に否認されているかというとそういうわけではなく、功績倍率は3倍ではあるが、功労加算金を含めるとすると4倍程度までは認められているケースもあります。この功労加算金の根拠としては、例えば対象となる役員は創業社長であり、幾度も倒産寸前まで追い詰められながら、危機を潜り抜けてきたなどの事情が多いのですが、その人がいなければ今の会社がないという事情(これは実際非常に多い)が普通です。

しかし、一方で功績倍率3倍を超えると税務署案件ではなく国税局案件になるといわれており、税務署側からすると避けたい事案になってしまうため、税務調査で揉め事になるわけです。個人的には、功績倍率は3倍程度に抑えておき、最終報酬月額で役員退職金の損金算入額の限度額を引き上げる方法をお勧めしたいと思います。日頃から感じていることなのですが、一般に中小企業の社長の報酬は低すぎるように感じます。

支給前の対策も可能

実際には月額1千万円程度の役員給与を得ている社長は多数存在しており、役員在任年数が30年とすると、1千万円×30年×3倍=9億円の枠になります。前提としては役員給与支払後も多額の営業利益を計上しており、役員給与が経営上の足を引っ張っていない等の条件がありますが、経営不振であればそもそも月額1千万円は支払えないでしょうから、優良企業では問題のない範囲です。中小企業でも会社によっては数億円の利益を計上しており、上場企業に匹敵するような売上と利益をあげているケースでは、上場企業並みの役員給与でも特に問題視されていないようです。

また、役員給与を役員退職金の支給直前に増やすのではなく、役員退職金の支給前にあらかじめ3年程度の実績を作っておき、役員給与が会社経営にマイナスの影響を与えていないことを立証することも重要です。

過大か否か

なお、過大役員給与の判定における実質基準(法人税法施行令70条一イ)では、「役員の職務内容」、「収益の状況」や「類似法人(その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの)の役員給与の支給状況」等に照らして、不相当に高額(法人税法34条2項)か否かを判断するようになっています。

ここで類似法人については一般的には「倍半基準」が用いられており、売上や利益などの事業規模が2倍以下で0.5倍以上の他社と比較して判定します。しかし、顧問税理士が類似法人の役員給与を知る手段は限られており、実務的には無理があるように思います。
また、役員退職金が過大か否かについても法人税法施行令70条の2において役員給与と同様の判定基準が示されています。この役員給与について不相当に高額か否かの判断基準については、2023年3月23日の東京地裁判決の判断基準が参考になります。

役員退職金が否認されないための手続き

役員退職金については、議事録の整備といった形式面と、金額の妥当性についての実質面の両方に気を配らなければなりません。役員退職金が否認されないための手続きなど、より詳細な内容を知りたい方は、以下の動画をぜひご覧ください。ここでは実際の議事録のモデルも掲載しています。

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