大学卒業後、医薬品総合商社に勤務。商社退社後、税理士法人を含む会計事務所3カ所に勤務。病院の医療法人に特化した税理士法人では、特定医療法人制度や社会医療法人制度などの実務経験を多数積む。2024年に岸川祐次税理士事務所を開業。
特定医療法人制度や社会医療法人制度などの実務経験を積み、2024年に開業された岸川先生に税理士になったきっかけや仕事をするうえで大事にしていることを伺いました。
学生時代から税理士を目指していたというわけではなく、大学卒業後は、医薬品の総合商社に入社しました。まず病院課に配属され、そこでは卸から見積もりを取り決まったものを納品するという業務を担当していたのですが、正直あまりやりがいを感じられませんでした。ですので、2年目になる頃に営業所長へ直談判して、開業医販路への異動を希望しました。
うれしいことに希望が通ったものの、いざ配属されてみると1年遅れでのスタートということもあり、同期と比べると大きなハンデがあり、すごく悔しかったのを覚えています。先輩の引き継ぎも短期間で終わり、最初の1年ほどは何をしていいかわからない状態でした。
そんななか、好きな推理小説を読んでいるときに、伏線を見つけて筋道を整理するというプロセスにヒントを得ました。このアイディアを営業に応用しまして、メーカーさんとの連携を強化することで、徐々に成績が向上したのです。5、6年目には成績が良くなり、営業所内でトップクラスの成績を収めることができました。
しかし、すべてが順調とはいかないもので、朝礼が始まる前に会社を出て、他の部署の社員が帰った後に戻ってくるというなかなかの激務で、それに比例するような形で体調を崩し、偏頭痛が頻繁に起こるようになってしまいました。
このまま10年、20年働くのは難しそうだなと不安を覚えるようになったころ、税理士の先生がドクターと対等に話している姿を見て、税理士ってすごいなと思ったのが目指そうとした大きなきっかけですね。新聞の記事かなにかで稼げる職業として紹介されていたというのも理由のひとつとしてはありますが笑
開業する前は、会計事務所3カ所に勤務しました。1か所目は商社の先輩の伝手で2代目先生に雇っていただきました。ただ、昔ながらと言いますか、先代もまだまだご健在で先代と2代目の派閥のようなものがあり、全然仕事を回してくれませんでした。これではスキルがつかないなと思い転職することにしました。
2か所目は、人材サイトに登録していたら、たまたま商社時代に一度お話ししたことがあった事務所からお声がかかりました。先ほど話したようにまだあまり経験を積めていなかったのでそれも正直に話し、給与はいくらでも良く、受験勉強する時間だけは欲しいとお伝えしたのですが、それで大丈夫だからと言われ働かせていただくことになりました。
ただ1年ほど経った頃に、やっぱりあげている給料に見合ってないというようなことを言われ、最終的には仕事か受験かどちらか選択せざるを得なくなりまして、2年後に結局やめることになりました。と、初めは苦労したのですが、3か所目で社会医療法人や特定医療法人など公益性の高い医療法人に特化した税理士法人にお世話になることになりました。17年ほど勤めまして、税務会計のみならず、医療に関する法律を学んだほか、特定医療法人制度や社会医療法人制度などの実務経験を多数積ませていただきました。
職場はある程度自由に仕事の段取りを任せてもらえることや所長の新規取り組みに共感していたので、定年頃まで勤められればという気持ちもありました。ただ、50歳を過ぎた頃から加齢のせいなのか依然と同じペースで仕事が捌けなくなり無理をすると体調を崩しやすくなってしまったのです。医療法人がお客さんということもあり、コロナ禍ではオンライン主体でしたので移動がない分当時はさほど気にしてなかったのですが、アフターコロナで訪問が増えてきて、同様に仕事をこなすのが心身共にキツくなってきました。
この状態で所属税理士を続けるのはお客さんにも事務所にも迷惑かけてしまうなと思い、また、昔体調を崩したこともあったことや自分で裁量を決められるという点からも独立を決心しました。
先ほど少しお話ししたように、直近の事務所が社会医療法人や特定医療法人といった公益性の高い医療法人に特化していました。こういった医療法人というのは例えば役員報酬がいくら以下でないとダメとか色々縛りがあります。その代わりに税制を優遇しますよと。
ですので、ドクターのみなさまの志が高いのです。そういう方々と長くお付き合いをしてきたので、自分もなにか少しでも社会に貢献できればという想いが強くなりました。ご予算的に他の税理士さんに依頼できない方のご相談に乗ったり、申告の必要性をおわかりでない方にきちんとご説明し毎年申告できるようにしたり、寝たきりなどで申告会場に行けない方のサポートをしたり。報酬だけで考えると受けるか迷いそうなものも、社会のためにという想いでお受けしています。
事務所規模としては、一旦ひとりでできる範囲でと考えています。仕事が増えて人を雇ってまた仕事を増やしてとなったときにその方に辞められるとお客さんに迷惑かけてしまいますからね。ですから、将来的に雇う可能性もありますが、その場合でも自分ひとりでも回せる仕組みづくりを考えながらやりたいと思っています。
これって病院の世界も一緒でして、診療報酬を認めてもらうには医師一人あたりに看護師が何人必要とか色々基準があります。それで人が辞めてしまうと報酬点数が減り、そうすると経営が厳しくなって給料が減りまた人も減るという悪循環に陥る可能性があります。そうならないよう、診療報酬に直接関係しない業務は機械やITなどを駆使して人員をかけずに回す工夫をする。そういったところのフォローをしていきたいなと思っています。
また、税務弱者のサポートも引き続きやっていきたいです。自分ひとりの影響度はそこまで大きくないかもしれませんが、そういった方を助けていくことが士業としての使命かと考えていますので。東京青年税理士連盟に所属しているのもそのような想いからです。
ひと言でいうと「なんとかなる」ですね。
私は税理士を目指した頃から医療専門でいくつもりで、医療だと1からお客さんを見つけるのは難しいので、もともと開業は考えていませんでした。周りから聞かれる度に自分はしないよと答えていましたが、体調のこともあり突然踏み出したわけです。いますごく軌道に乗っているというわけでもないですが、昔のお客さんから紹介があったり、前の事務所から紹介いただけたり、なんとかなります!
また、独立しないと考えている方も私のようにいつどうなるかわからないので、一度独立するつもりで仕事をしてみるといざそうなったときに慌てず対応できるかなと思います。なので、迷われている方は一歩踏み出してみるといいのかと思います!