1992年東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。主に経理業務を担当し、金融商品会計等の制度対応も担当。2002年住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に移り、主に税務業務を担当。2019年東京都目黒区にて金子真一税理士事務所を開業し、現在TKC全国会中堅・大企業支援研究会会員、東京税理士会目黒支部租税教育委員長。
今回インタビューした金子先生は、25年にわたり信託銀行で経理業務を経験後、税理士として開業されました。その経験や気づきは、税理士業界に飛び込むことに不安を感じている方の参考になると思います。ぜひご一読ください!
大学時代に「会計研」という公認会計士を目指すサークルに入っていた友人の誘いで日商簿記を受験したのが税理士を目指すきっかけになりました。公認会計士を目指そうと思ったのですが、在学中はサークル活動に明け暮れたため全く勉強しておらず、親から卒業後の兵糧は自分で調達するよう言われて断念しました。その代わりに働きながら受験する方が多い「税理士」を目標にしました。職場は一番自分に投資してくれ、勉強させてくれそうな信託銀行を就職先に選びました。
信託銀行に入社したのは1992年です。4年目に東京の本社で経理をやることになり、そこから会社が変わっても一度も部署異動することなく経理・税務担当として勤務しました。業務自体は楽しく、学ぶことも多かったのですが、いかんせん忙しく、毎日深夜まで仕事をして翌朝早く出社するといった生活でした。勉強する時間は週末に限られていたこともあり、試験は失敗の連続でしたが、それでも諦めず20年以上受験し続け、48歳で5科目合格することができました。
金融機関の経理・税務担当としてやれることはすべてやったという思いもあり、残された人生を考えた時、せっかく税理士資格を取ったのだからやりたいことをやろうと思い、50歳で退職し独立開業する道を選択しました。
2019年9月末で退職し10月に税理士登録、独立開業したのですが、年明けの2020年から世の中はコロナで大変なことになってしまいました。事務所経験ゼロ、クライアントゼロ、仕事ゼロのため時間だけはたくさんあったので、名刺が欲しいと考え本を書くことを決意し、原稿を税務研究会に持ち込みました。
当時、消費税のインボイス制度を解説した書籍が出始めた頃で、制度解説にとどまらない、インボイス制度を組織の中でどう浸透させて仕組みを作っていくのかに力点をおいた解説にすれば、他の書籍との差別化になると考えての執筆でした。2回書き直し、3回目で出版が実現しました。
この後、商工会議所などからセミナーの依頼をいただけるようになり、講師として地方を巡りました。2023年の年明けからは大手企業からセミナー等の依頼をいただき、出版社やシステムベンダーのイベント等で講演等も数多く担当させて頂きました。
今年(2024年)の夏からは、国際税務の取組みを始めています。コンセプトはバイリンガルで日本の分かりにくい会計、税務ルールを外資、非日系の方々に分かりやすく説明することです。
国際税務の取り組みは、自分でも驚くような偶然から始まっています。スリランカ在住のスリランカ人の友人から日本で仕事をしたいという相談を受け、流れで私が雇うことになりました。彼は5か国語を話せるため、彼の語学力に、自分の会計・税務の知識を掛け合わせることによって、外資、非日系企業への情報提供などより良いサービスが提供できるのではないかと考えています。
彼との出会いも全くの偶然です。47歳の時に連続休暇を取り、思いつきでドバイに行きました。80年代はまだラクダを引いて行商をやっていた人たちが、石油によって世界一のビルを建てたり、世界一の大きなショッピングモールを作ったりしていることを知って、一度観てみたいなと。その時に現地のツアーガイドを担当してくれたのが彼なんです。密かに銀行を辞める決心をしていたので、将来何かつながれたらいいですねとLINEを交換していたのがきっかけで、今回彼の来日をサポートし、一緒に働くことになったんです。
更に偶然が重なり、帰国子女で語学堪能な方も仲間に入ってくれたので、これは国際税務をやるしかないなと。ホームページの英語化のほか、これまで執筆してきた情報を英語にして、海外に発信していけば、いろいろな化学変化が起きるのではと思っています。そんな風に考えて動いていたら、間接的ですがスリランカの介護系大学から卒業後の学生の日本での就業に関する相談があったり、世界の税務当局を指導する等で活躍されているフェアコンサルティングの細田先生にご縁を戴くなど、さまざまな反応が生まれ始めています。
ずっと企業の中で働いてきたので、税理士がやっている普通の業務を知りませんでしたが、「なんとかなる!」の一念だけで独立しました。「仕事が出来るのだろうか」、「収入は最低限確保できるだろうか」など心配し始めたら独立はできなかったと思います。思い切り、行動が重要だと思います。
監査法人から独立開業した会計士の方々とも交流していますが、皆さんも「腹をくくって飛び込むしかない。飛び込んで、いい仲間、いいコミュニティに出会えれば案外何とかなる」とおっしゃっています。
士業は孤独というイメージがありますが、人とのご縁、人との繋がりで生かされていると実感しています。自分はTKC全国会と東京青年税理士連盟という2つのコミュニティに入っていますが、必ず誰かが助けてくれますし、教えてくれます。皆さんに合うコミュニティをみつけ、まずは飛び込んでみてはいかがでしょうか。特に現在、税務行政のDX、デジタルインボイスの普及などの制度改正が始まっており、誰もが未経験の分野ですので、横一線の大チャンスです。一緒に頑張りましょう!