1998年上智大学法学部法律学科卒。2003年弁護士登録(第二東京弁護士会・司法修習56期)、鳥飼総合法律事務所入所。2014年1月~同事務所パートナー。2015年4月~青山学院大学法学部教授就任に伴い、同事務所客員弁護士。
税務分野の弁護士として活躍され、60冊以上の書籍を執筆されている木山泰嗣先生。2015年40歳の時に、青山学院大学法学部の教授に転身されました。今回は、木山先生のこれまでの歩み、若い方への教え方などについて伺いました。
2003年10月に入所してから数年は刑事、家事、民事と色々と担当しましたが、所長の鳥飼重和先生から税務専従を提案された後は、ほとんど税務関係の業務をしていました。税務訴訟は所得税・法人税・相続税・贈与税・地方税まんべんなく経験し、「ストックオプション訴訟」と呼ばれる有名な最高裁判決を、加算税部分で勝ち取ることもできました。税務調査は法人税、特に役員給与が多かったという印象です。あとは、相続財産の評価、非上場会社の株式の評価をめぐる争いも多かったですね。
青山学院大学の法学部の当時の税法の先生から、「大学の方に来てみないか」というお誘いをいただいたのがきっかけですね。
当時、私は40歳で、 事務所のパートナーになっていましたが、新しいことに挑戦できる時期でもありました。弁護士から大学教授・学者になるなんて通常ないことでしたので、ご縁をいただいたことをチャンスと捉えて、やってみようという気持ちを強く持てるような年齢だったのかもしれません。いざ大学に入ると、授業中心と想像していたら、授業は全体の微々たるものにすぎず、入試や論文作成など思いの外することがあって、最初は慣れるのが大変でした。学生が法的思考力や文章作成能力を身に付けてたくましく成長したと思うと卒業、また一から教えることの繰り返しということにも戸惑いました。ただ、3、4年くらいすると慣れてある程度ルーティンでこなせるようになってきましたね。
四大学税法ディベート大会という大会があるのですが、毎年ゼミ生同士がゼミの時間以外にも集まって夜遅くまで準備をしているので、やることが多く大変なゼミという評判になっているみたいです。弁護士・税理士になったOBOGの方や大学院生も、ディベートの対戦相手になってくれています。法学部首席も4回でました。
税理士や税務職員の方向けに法的思考力の身に付け方を教科書のような形で作った『リーガルマインドのあたらしい教科書』(大蔵財務協会)。税法の判例を中心にしながら法学入門的な内容を一般の方向けに書いた『武器になる「法学」講座』(ソシム)。この2冊はぴったりかなと思います。
今の若い世代と事務所を持たれて指導される40代以上の方とでは、育ってきた環境や考え方が全然違うことを認識しないといけないと思います。私が学生だった頃は勉強=一人でするものでしたが、今は小中高でディスカッション、グループワーク、プレゼン、ディベートもしてきています。大学生を見ていると、思考力重視の教育で育った若い世代は凄い能力を持っていることが分かります。ITへの対応もはるかに早いし、よく知っている。私も「こういうの使った方が便利ですよ」と学生から色々なものを教わってきました。若い世代に指導しようとするのではなく、教わればよいのです。その上で、長い経験で得たものの中で必要なものは共有してあげればよい。こういった考えに変えていかないと生き残っていけないでしょう。色々な士業の方と話して感じています。
30代の頃は夢や目標があり、弁護士として色々なことが自己実現としてできました。なかなか勝てない税務訴訟で勝訴して注目を集めたりすると、「ああ、こういう仕事を選んでよかったな」と感じていました。ただ本音でいうと、純粋な弁護士の仕事だけでは満足を得ることができない部分があったかもしれません。もともと本を書きたい願望が私の原型としてあり、小中学生の頃は漫画家になりたくて、でもなるのが難しかったので、弁護士になったという側面もありました。弁護士時代から書籍を沢山書 いてきたのも、弁護士の仕事をしているだけでは個人としての心の底からの満足は得られなかったからだと思います。大学に来てからは論文を書く機会が増えたのですが、論文は書籍よりももっと地味で読むのは専門家のみ、時間ばっかりかかるのですが、深い満足は得られるんですね。不思議と。話を戻すと、40代になり、私は自分のためではなく人のため社会のために、自分のもっているものを提供していきたい、捧げていきたいという生き方に変えました。それを今後も続けていきたいです。大学教授として、社会で活躍できるような人たちを輩出していきたいですね。