大学卒業後、税務事務所に勤務。提携の監査法人への出向を経て、2007年に戸川公認会計士事務所を設立。翌2008年に税理士法人二重橋総合会計事務所を設立し、代表社員に就任。
税務事務所や監査法人での経験を経て、2007年に開業した戸川先生。税理士を目指したきっかけや力を入れている取り組みについてお伺いしてきました。
自分の生い立ちからの話しになりますが、私の父が、従業員数名の小さな印刷関係の会社を経営していて、会社が行う事業には自然と興味を持っていましたし、顧問税理士の先生の存在も小さい頃から知っていました。そして、進学した高校が商業色の強い学校で選択科目に会計があり、また、大学も商学部だったので、公認会計士や税理士は職業として頭にありました。
そんな時分、大学1年生の時ですが、父が病気で亡くなり、家業の継続や相続といった問題が生じました。家計の問題もあり、大学を辞めなければならないか、ということまで母と相談しました。ただ、ありがたいことに家計急変の場合の奨学金制度というものを紹介してもらえることになり、そのおかげで生活の目途も見えてきたので、あらためて公認会計士や税理士の資格を取って自分の力を活かしたいという思い、そして、苦労していた母を楽にしてあげたいという思いから、本気で勉強に取り組むことを決意しました。
父がいなくなったことで精神的に辛い時期もありましたが、お借りした奨学金、そして母や、家業を承継した兄、周りの方々のサポートのおかげで、生活も徐々に落ち着いてきました。勉強に集中できるようになると、世の中の動きやニュースが自分の学んでいることと結びついて理解できるようになり、大学の授業でも試験勉強でも、会計や周辺の学問のおもしろさを感じるようになったことを覚えていますね。深夜、時には朝まで倉庫でアルバイトをしてそのまま早朝答練に行くなんてことをしながらも勉強を続け、大学卒業年次になんとか合格することができました。
学生時代は金融関係のゼミに入っていたこともあり、当時からコーポレート・ファイナンスやM&Aには興味を持っていました。そして、監査法人を中心として各社の説明会に参加するなかで、税務というしっかりとした軸を持ちつつも、M&A関係の仕事ができること、メンバーファームの監査法人に出向して監査業務にも従事できる点などに興味をもち、公認会計士試験合格者を募集していた税務事務所に入所しました。
父が亡くなったときに税理士の先生にお世話になった経験から、税務をしっかり理解したいという思いもあったのかもしれません。監査法人への出向期間も含め、5年間勤務してたくさんの経験を積ませていただきました。
開業のきっかけは、海外駐在を考える時期に差し掛かったことでした。私が勤めていた事務所は海外駐在する方が多く、同期が次々と海外駐在に行くなか、自分もそのような機会をとらえつつ同じ事務所でそのまま続けていくのか、それとも違う道に行くのか、そのためにまずは将来自分がどうしたいかをしっかり考えたいと思いました。事業会社や投資ファンドの転職も視野にあったので、そういった会社の方からも実際に話を聞きました。
そうしたなかで、「会計税務の知識をスピーディーに提供したい」「知識も活かしながら、主体的に自分の力を試してみたい」「どのような方々にどのようなサービスを提供するかを自分で決めていきたい」という気持ちが強まり、独立することが自分にとって最良の選択だと確信しました。亡くなった父が、小さいながらも自分の会社を経営していた、というのも後押しになったのかもしれません。
独立する際に決めた方針として、まず会計・税務を主軸に据え、顧問業務などのリカーリング業務をしっかりと受注していくことを目指しました。一方で、プロジェクト業務やM&Aなどの単発・短期的な業務も並行して受注することで、独立前と同様に両輪の業務を行っていこうと決めました。開業して17年経った今も同じ方針で業務できており、こうやってあらためて振り返って見ると、結果的には当初の思いが実を結んでいる部分もあると感じています。
顧問先としては、上場会社や上場準備会社も一定数ありますが、資本政策の課題を抱える非上場会社などもあり、クライアント層としては比較的幅広いのではないかと考えています。また、単発の業務としては、デューデリジェンスなどのM&A関連業務、再生関連業務などがありますが、そういった単発の業務で関与した会社に、その後も継続的なサポートを行う場合もあります。
特定の分野や業種に特化しているというわけではありませんが、どんな会社であっても、組織再編に直面したり、資本政策の課題などを抱えたりしていることも多いので、その両輪がそれぞれの業務に活きているのではないかと思います。
他に大事にしていることといえば、やはり自分自身が専門家としての役割を果たすということです。もちろん、しっかりとした組織の中で活躍している専門家はリスペクトしたうえでということになりますが、最近はテクノロジーの進化に伴い、文献や事例の探索、データの収集・分析などは自分でも効率的に行える環境が整いつつあります。コミュニケーションツールもどんどん発達しています。
ですので、自分に求められているのは、専門家としての本来的な資質である、基準や法令の理解、事実関係の理解、それらのあてはめ、そして相手の疑問をしっかり理解したうえで回答する、相手の組織の状況も考えながら適切な分析や提案を行う、といったものだと思っていて、最近はそれがあらためて重視されるようになっていると感じています。
仕事のやりがいは、多くの要素から感じていますが、そのなかでも、月並みではありますが、依頼者との信頼関係を構築できたと感じた瞬間が一番のやりがいです。信頼関係が築けると、良い仕事ができ、それが次の仕事に繋がります。
例えば、M&A案件で、デューデリジェンスから関与してその後もサポートを続け、買収した会社の業績が好調に推移し、そのクライアントから新たなプロジェクトの依頼を受けるといったことがありますが、それは、仕事を評価してもらえたということ、さらにそれがクライアントの価値向上にもつながっているということですから、非常に嬉しいですね。同時に、決算業務についてもやりがいを感じます。
年齢を重ねてくると、1年という区切りに重みを感じますし、自分の事務所の決算もあるので、そういった区切りの大事さが以前にも増して理解できるようになってきています。そうしたなかで、上場会社であっても中小企業であっても、決算業務を終えて「おかげさまで決算を終えることができました」と感謝の言葉をいただくのは、その会社やその担当者の1年という区切りに貢献できたという意味で、大きな喜びになります。
このような一つ一つの瞬間が、日々の業務の励みになりますし、こういった瞬間があるから、大変な日々も頑張れます。今後も両輪をうまく回しながら、さまざまな方のサポートをできればと思います!