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専門家インタビュー

エビデンスベースで業界全体にアプローチする、その想いと取り組み

新日本監査法人にて病院監査や不正調査業務を経験後、医療経営への関心を深め、慶應義塾大学大学院、一橋大学大学院を修了。独立後も研究を継続。現在は実務と研究の両面から医療業界に関与し、公的病院等の有識者会議委員なども務めている。

監査法人での病院監査などの経験し、独立後も研究を継続している田村先生。会計士・税理士を目指したきっかけや今後の展望をお伺いしました。

会計士・税理士を目指されたきっかけを教えてください

父が税理士だったこともあり、大学時代に資格を取るならどちらがいいかと相談したところ、会計士のほうがいいんじゃない?と背中を押されて勉強を始めたのがきっかけです。正直なところ、明確な目的があったわけではなく、父の勧めなら間違いないかもしれないと思って、軽い気持ちで始めたのが本音でした。

医療へ興味を持ったきっかけや独立までのエピソードを教えてください

コツコツと勉強を続け、26歳で公認会計士試験に合格し、監査法人で約6年勤務しました。監査法人での勤務中、転機となったのは病院の監査を担当したときでした。事務職員の方々のモチベーションが非常に低く、業務への責任感や主体性が見えづらいことにショックを受けたんです。これが医療機関全体の運営に与える影響は大きく、このままでいいのか?という疑問が芽生えました。
 
さらに、不正調査の業務にもたびたび携わりましたが、そこで見たのは一般企業では考えられないような不正の実態でした。現金の横領、医療機器のリベート、内部牽制の欠如——こうした構造的な脆弱さが医療業界のあちこちに存在していることを目の当たりにし、強い問題意識を抱くようになりました。
 
こうした中で、医療の現場を本当に理解しなければ、適切な助言はできないと思うようになり、32歳で慶應義塾大学の健康マネジメント研究科に進学しました。実は、ある病院の事務長に一般企業なら当たり前の指摘をしたのに、「田村さんは医療のことを知らないんだから、口を出さないでください」と言われたことがきっかけだったんです。悔しさもありましたが、それ以上にちゃんと勉強して、現場と同じ土俵に立ちたいという気持ちが強まりました。
 
大学院では医療政策や医療経済を基礎から学び直し、朝から晩まで研究に打ち込みました。修了後、医療専門の法人などに勤める道もありましたが、大学院との両立や自身のタイミングを踏まえて、独立という選択をしました。病院経営者の勉強会に参加したり、大学院時代のネットワークを活用したりしながら、医療機関との関係を築いていきました。
 
ただ、一つの病院を改善しても、別の病院ではまた同じような問題が起きている。それならば、業界全体に働きかけるようなアプローチをしたいという想いが生まれ、研究への関心がさらに深まりました。そうして42歳のときに、一橋大学の博士課程に進学することを決意しました。

地域医療を支えるための活動について教えてください

現在は、実務と並行して、地域医療に関するいくつかの有識者委員も務めています。公的病院の経営に関する会議などに関わり、年数回の頻度で、決算や事業計画についてコメントしています。
 
これらの委員会では、地域医療を持続可能にしていくために、経営の視点をどう取り入れるかが常に課題となります。今の医療機関は、診療報酬が抑えられている一方で、人件費や物価が高騰しており、経営的に非常に厳しい状況に置かれています。特に中小病院では、赤字をどうやって解消するか、スタッフの定着をどう図るかが切実な問題です。
 
一方で、診療報酬を簡単に引き上げることもできません。社会保険料の負担が増えてしまうからです。こうした複雑な構造の中で、少しでも医療機関が健全に経営を続けていけるような仕組みづくりを、微力ながら支援したいと考えています。

AIやIT導入に力を入れていると聞きました

ITやシステム周りは、昔から興味がありました。学生時代には自作PCを組み立てるなど、パソコンいじりが好きだったんです。その延長で、事務所のIT環境はすべて自分で構築・運用しています。クラウド会計の導入から業務の原価計算システムの設計・整備まで、自分でシステムを評価して運用管理しています。最近はITに強いスタッフが入ってくれたおかげで、さらにIT周りが強化されました。
 
特に近年はAIの活用を積極的に進めています。AI OCRを使った領収書の読み取りや、仕訳提案機能を用いた自動処理の導入に踏み切り、人の手による単純作業を減らす仕組みを整えてきました。こうした仕組みによって、スタッフが付随的な事務処理に追われることなく、より価値の高い業務に集中できる環境が整ってきたと実感しています。
 
また、お客様側にとっても、コスト削減や対応スピードの向上といったメリットが明確にあります。私は5年ほど前から「人が入力する仕事はいずれなくなる」と伝え続けてきたのですが、今ではその予測が現実になりつつあり、現場のメンバーもそれに適応しながら前向きに変化を受け入れてくれています。ITはあくまで道具ですが、その道具をどれだけ有効に使えるかが、これからの税理士業務の質を左右する時代になってきていると感じます。

医療業界での会計士・税理士の役割とは、どのようなものでしょう?

私がこの業界で強く実感しているのは、会計の力が「対話の共通言語」になるということです。医療の現場では、医師、看護師、事務職、経営者など立場や専門性が異なる人々が集まって話し合う機会が多くあります。そのときに、会計という中立的で定量的な指標があることで、感情論や立場にとらわれず、議論を冷静に整理・調整することができます。
 
また、医療機関の経営者は基本的に医師であるため、経営や財務についての専門的な訓練を受けていないケースも多いです。そうした方々に対して、会計の視点から支援を行うことで、経営判断の精度を高めたり、無駄なコストを抑えたりと、実務に直結する支援が可能になります。会計士・税理士が果たすべき役割の一つだと考えています。
 
さらに、医療の世界はエビデンスを非常に重視する文化があります。医師や医療従事者は科学的な根拠を重視するため、「なんとなくうまくいきそう」といった直感的な提案は受け入れられにくいのです。そこで、管理会計の手法や統計的な裏付けをもとにした提案は、非常に大きな意味を持ちます。私自身も、博士課程での研究活動を通じて、そうしたエビデンスベースのアプローチを積極的に活用しています。
 
つまり、会計という専門性を軸にしながら、医療現場との橋渡しを行い、現場の改善と業界全体の持続可能性に寄与すること。それこそが、私が目指す医療業界における会計士・税理士のあり方だと考えています。
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