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専門家インタビュー

ジョブ型への移行を見据えて 企業の法的・文化的変革のお手伝い

1990年 弁護士登録、現在 慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)講師(労働法実務)主な著書に『Q&A休職・休業・職場復帰の実務と書式』(新日本法規出版)、『労働法実務相談シリーズ⑥ 就業規則・労使協定・労務管理Q&A』(労務行政)、『労働契約の実務』(日本経済新聞出版社)、『問題社員・余剰人員への法的実務対応』(日本法令)、『戦略的な人事制度の設計と運用方法』(労働開発研究会)ほか

今回、お話をお伺いしたのは第一芙蓉法律事務所の浅井隆先生です。経営サイドの労働法分野の相談対応や紛争処理に精通した先生に、最近の労務問題のトピックスについてお話を伺いました。

浅井先生は、特に 経営サイドの労働法分野の相談対応や紛争処理に精通されています。近年の労働問題の特徴を教えてください。

1点目は「パワハラ問題」です。昨年、法律が成立した影響があるのかもしれませんが「こういうパワハラが発生した」ということで「会社としてどのような対応をすればいいか」という相談が増えました。
2点目は「降格、あるいは賃金の減額」の相談です。これは、従業員の業務と現在の賃金が釣り合っていないので、降格とするか賃金を減額とすることでバランスを是正したいのでどう対応するべきかという相談です。

2020年4月の民法改正を受けて、残業代請求権の消滅時効が2年から3年に延長されました。企業側の対応として、留意すべきポイントを教えていただけますか。

制度面については、2つのポイントがあります。
1点目は定額残業代制度についてです。現在多くの企業で導入されている制度ですが、設計に不備があり、残業代を払い直さなければいけなくなるようなケースも見受けられます。
平成24年のテックジャパンの最高裁判例(H24.3.8) で、通常の労働時間の賃金と法定外の労働時間の賃金を明確に区別しなければいけないということが示されました。定額残業についても、金額と何時間相当なのかを明記しておかなければいけません。
2点目が、管理監督者、事業場外労働についてです。こちらも設計の不備がよくあるので、見直しが必要です。
管理監督者については、労働基準法41条2号で労働時間の適用除外になっていますが、「労務管理について経営者と一体的な権限があるか」、「自分の労働時間管理に裁量性があるか」、「管理監督者にふさわしい待遇がされているか」の3つの要素で実態に即して判断されます。会社側がこの判断を甘めに行っている場合が多いです。
事業場外労働も同じで労働基準法38条の2で定められている「事業場外の労働である」「労働時間の算定がしがたい」という2つの要素が要件となります。この線引きも厳格に行い、事業場外労働の設計を見直しておく必要があります。
次に運用面のポイントです。まず、労働時間の管理をしっかり行うことが必要です。
効率の悪い残業をする労働者がいる場合には、〇時間以上の残業禁止、あるいは残業自体を禁止する、などというような規制をしていくことも必要かと思います。
消滅時効の延長により、未払い残業代請求の件数は増加すると考えられます。上記のポイントを留意すると紛争の予防になると思います。

コロナ禍の労働問題として、例えばテレワークでの労務管理の難しさを耳にします。対応策があれば教えてください。

まず制度面ですけれども、在宅勤務についての規定を整備することが重要です。ポイントは「許可制」にするということです。企業側の裁量で中止にしてもいいようにしておきます。
また、在宅勤務中の労災も少なくありません。労災防止のためのガイドラインを作っておいて、順守してほしい旨を伝えておくのがよいかと思います。
運用面での留意点は、「成果」について注視しておく必要があるということです。在宅勤務で成果が出ていないのであれば、許可を取り消して会社に出てきてもらうという対応をすべきだと思います。

2021年4月から同一労働同一賃金が中小企業も適用対象になります。留意点を教えてください。

同一労働同一賃金と呼ばれているものは、正確にはパートタイム法8条、9条で定められている「均等待遇の原則」「均衡待遇の原則」のことです。
均等待遇の原則は、同じ職務内容等の場合は同じ待遇にするということです。有期労働者、短期労働者と正社員で、同じ職務内容等、つまり仕事の中身や責任、配転の可能性などが同じであれば、待遇も同じにしなければいけないということです。賃金だけではなく、さまざまな 労働条件にかかる原則です。
一方、均衡待遇の原則というのは、同じ職務内容等でなくとも、違いに比例した待遇にするという原則です。「比例の原則」というのがイメージしやすいと思います。
均等待遇の原則については、同じ職務内容等でなければ、原則に当てはまりません。具体的には、有期労働者・短期労働者については「異動はありません」「責任の範囲はここまでです」とはっきり書いて職務内容等が正社員と異なるようにします。
均衡待遇の原則は、基本的には保守的に考える必要があります。有期・無期にかかわらず等しい価値がある慶弔関係、安全と衛生関係については待遇を揃えたほうがいいです。
ただ、裁判所なども判断しにくい原則ですので、他の部分についてはあまり神経質に労働条件を同じようにする必要はないと思います。

最後に浅井先生の今後の展望をお聞かせください。

現在、さまざまな会社、特に大企業で、職務と待遇を一致させようという、いわゆる「ジョブ型」とよばれる労働形態へ移行していこうという動きが活発になっています。この動きは法的に見ると「不利益変更」であり、政策的に見ると「企業文化の変革」です。
法的、政策的、2つの側面から企業のお手伝いをしていきたいと考えています。そして、このお手伝いが日本経済の活性化につながっていくと考えております。

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